税務情報
2025.02.19
法人成りとは?適切なタイミングやメリット・デメリット、法人の種類も解説!
本記事では法人成りの意味や、メリットやデメリットについて解説していきます。
法人成りに適したタイミングや選べる法人の種類も紹介していくため、検討している方はぜひ参考にしてください。
目次
1.法人成りとは<
法人成りとは何か、必要な手続きについて解説していきます。
1-1.個人事業主が法人に組織変更すること
法人成りするには手間がかかるものの、社会的な信用が高まったり、資金調達しやすくなったり、税制面で有利になるケースがあったりとメリットがあります。
法人成りをする場合、会社設立の手続きが必要です。
1-2.個人事業主と法人の違い
個人事業主が事業開始する場合、開業届を税務署に提出すれば可能で、費用はかかりません。
一方で法人の場合は法務局での登記など設立手続きに手間と費用がかかります。
税制面において、個人事業主は「所得税」法人は「法人税」が課税されます。所得税と法人税では税率が異なるほか、青色申告控除、欠損金の繰越、生命保険料の取り扱い等多くの違いがあります。
また、従業員の社会保険に関して、個人事業主は従業員4人以下であれば加入する必要はありませんが、法人の場合は必ず社会保険に加入する必要があります。
1-3.法人成りに必要な手続き
次に、会社の実印を作成して印鑑届出書を提出します。
実印は法務局での登記の際に必要となるため、必ず作成してください。なお、設立登記をオンラインで行う場合は、印鑑は任意となります。
法人口座開設のための銀行印と、請求書や納品書に押印する角印も作成しておくとよいでしょう。
法人を設立する場合は定款を作成し、認証を受ける必要があります。
定款とは、法人を運営するためのルールをまとめたものであり、法人設立の中でも特に時間がかかります。
定款には商号や事業目的などの「絶対的記載事項」があり、絶対的記載事項のない定款は無効となってしまうため注意が必要です。
定款認証後に出資金(資本金)の払い込みを行い、払い込み後に法務局で登記申請をする必要があります。
登記申請には設立登記申請書や定款、発起人の同意書など、さまざまな書類が必要となり、準備に手間がかかります。
登記申請は原則として代表者が行いますが、委任状を作成して司法書士などの代理人が行うことも可能です。
登記申請後、不備がなければ10日間ほどで登記が完了し、法人設立となります。
2.法人成りのメリット・デメリット
2-1.法人成りのメリット
● 赤字を10年繰り越しできる
● 自身への給与、役員への退職金を損金にできる
● 法人名義で契約した生命保険料は損金にできる
税制上、個人事業主に比べて経費に加えられる対象範囲が広がるため、所得が抑えられて課税される税金を少なくできる可能性があります。
また、個人事業主の場合は所得税がかかり、税率は所得が増えるほど増えます。
法人の場合でも法人税がかかりますが、税率が一定です。
そのため、事業である程度以上の所得が生じる場合は、法人のほうが税金が少なくなります。
また、法人成りすることで社会的な信用が高まり、金融機関からの融資を受けやすくなります。
2-2.法人成りのデメリット
法人設立のための定款作成や登記手続きについて専門家に依頼する場合は、さらに報酬も支払わなければいけません。
また、法人になると法人住民税の均等割が課され、赤字の場合でも税金の支払い義務が生じます。
そのほか、従業員の人数に関わらず社会保険への加入が必須となり、社会保険料を従業員と折半して法人が負担しなければなりません。
さらに法人の場合は会計処理や事務作業、税金の申告作業が複雑化するため、会計税務の専門知識がなければ作業は困難でしょう。
事務スタッフの採用や税理士への依頼が必要となり、その分の費用が増加します。
また、法人の場合は交際費の損金算入に制限が加えられる点も注意が必要です。
3.法人成りに適したタイミング
では、どのタイミングで法人成りするのが適しているのか、解説していきます。
3-1.所得金額が800万円~900万円になったとき
法人の場合は法人税・地方法人税・事業税・特別法人事業税・法人住民税がかかり、実効税率は21.36%~33.58%(中小法人で標準税率適用、東京都の場合)です。
したがって、ある程度所得が増えた段階で法人成りすると、事業にかかる税金が少なくなり、おおよその目安が所得800万円です。
注意点として、所得600万円の段階から法人のほうが税金が少なくなりますが、所得600万円~800万円だと個人事業主の税金とあまり差がなく、法人成りする手間や費用を考えるとメリットが薄いでしょう。
3-2.そのほかの理由
金融機関では法人のほうが事業の継続性や安定性が高いと判断する傾向があり、信用力が高まるため、法人成りによって融資を受けやすくなります。
また、個人事業主の場合は事業主が亡くなると事業継続が困難です。
一方で法人では所有と経営が分離されているため、事業主の状態に関わらず事業継続が可能です。
事業を後継者に引き継ぐ場合も、法人のほうが手続きがスムーズに進みます。
さらに、一部の会社では個人事業主との取引を避け、法人との取引のみを行う場合があります。
したがって、法人化したほうがより多くの会社と取引する機会が生まれるでしょう。
4.設立する法人の形態
株式会社と合同会社それぞれの違いや、メリットおよびデメリットを解説していきます。
4-1.株式会社と合同会社の違い
出資した株主がそのまま経営者になるわけではなく、事業で得た利益の一部を出資者に「配当金」という形で分配します。
資本金は1円からでも設立できますが、あまりに資本金が少ないと会社の財政状態に疑問を持たれる可能性があるため、数十万円~数百万円ほどを資本金として設立するのが一般的です。
設立には、定款の認証と登記が必要となります。
合同会社は出資者が「社員」となり、出資者と経営者が同一です。
資本金は1円からでも設立でき、定款の認証は不要です。
設立費用は株式会社では約22万円~24万円、合同会社では約10万円がかかります。
4-2.株式会社のメリット・デメリット
いくつかの大手外資企業では合同会社にしているケースもありますが、もともと海外で大手企業としての知名度があるため、信用面をクリアできているのが実態です。
また、株式会社は株を発行して出資を募ることにより資金調達ができます。
デメリットとして、出資者に利益を還元する際はその出資額に応じて利益を配分しなければならないため、配分額を自由に決めることはできません。
さらに、株式会社は決算公告の義務があります。
決算公告とは、会社の財政状態や経営状態を、出資者や債権者に明らかにするものであり、株式会社は毎事業年度必ず行わなければなりません。
一般的に決算公告は官報に掲載しますが、7万円ほどの費用がかかります。
なお、電子公告では約1万円と費用を抑えられます。
4-3.合同会社のメリット・デメリット
一方で合同会社では出資者が「社員」となり経営に加わるため、総会決議は不要となりスピーディーな意思決定が可能です。
また、役員任期について株主総会では通常2年と定められており、再任の場合でも重任登記が必要で登録免許税がかかります。
合同会社では役員任期の制限がないため、このような登記は不要です。
決算公告する義務はなく、出資者へ利益を還元する際も出資割合によらず決められます。
一方で株式会社よりも知名度が低く、取引にあたりマイナスイメージを持たれる可能性があります。
さらに出資者である社員全員が対等の意思決定者であることから、出資者同士で意見が対立した場合は、事業活動に悪影響が出るかもしれません。
この点、株式会社では基本的にそれぞれの株主が保有する株式数に応じて議決権が付与され、株主総会で議決権の過半数の賛成が得られれば、原則として実効が可能です。
例えば社長が株式の大半を所有し、議決権の過半数を持っていれば、社長の決断のみで意思決定が可能です。
そのほか、株式会社と違って株の発行による資金調達ができないため、資金調達手段が限られるというデメリットがあります。
まとめ
さらに社会的な信用を得やすくなるため、資金調達をしやすくなるでしょう。
一方で設立には費用がかかり、会計や税務申告が複雑化する点はデメリットだといえます。
しかし、会社規模がある程度以上大きくなった場合や、事業規模を拡大していきたい場合は、法人成りを検討するとよいでしょう。
法人の設立や法人成りした後の会計税務業務は複雑な手続きのため、専門家へ依頼するとよいでしょう。
監修者情報

税理士法人スマッシュ経営
杉田 透(すぎた とおる)
資格:税理士
経歴
- 1959年
- 愛知県豊田市生まれ
- 1980年
- 名古屋国税局採用
- 2010年
- 法人税担当統括官
- 2020年
- 名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 知立本社入社
所属税理士となる