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2025.02.19

贈与と譲渡の違いとは?かかる税金や税率を不動産・株式に分けて解説

贈与と譲渡について、具体的な違いが分からない方も多いでしょう。
似たような言葉ですが、定義や税金の扱いには明確な違いがあります。
本記事では贈与と譲渡の違いを分かりやすく解説し、不動産や株式にかかる税金の違いについても詳しく紹介していきます。

 

1.贈与と譲渡の違い

まずは、どういったものが贈与または譲渡になるのか、その違いについて解説していきます。

 

1-1.贈与:無償で譲り渡すこと

贈与とは、財産を対価をもらわずに譲り渡すことです。
不動産や株式など譲り渡す財産にかかわらず、無償での譲渡は贈与となります。
譲り受けたのが個人であれば贈与税が、法人であれば受贈益として法人税等がかかります。
贈与税は、税金の計算上、1月1日から12月31日までの1年の間の贈与につき、110万円の控除が受けられるため、1年間に110万円までの財産の贈与であれば贈与税がかかりません。
これを利用して、親が元気なうちに財産を贈与によって譲り受けておく方法も使われます。

また、生前に贈与された後に贈与した人が他界して相続が発生した場合、高額な財産を譲り受けていると「特別受益」という扱いになります。

「特別受益の持ち戻し」とは、生前に特定の相続人が多くの財産を受け取っていた場合、遺産分割の際にその分を実際に残されていた相続財産に加えて分割協議をする、つまり、贈与を受けた相続人の相続分を減らす計算をして調整することにより、ほかの相続人との公平性を保つための仕組みです。

 

1-2.譲渡:有償で譲り渡すこと

譲渡とは、財産を対価を得て譲り渡すことです。
財産の種類に関わらず対価を得て譲った場合は、譲渡となります。
個人の場合は財産の売却によって得た所得に対して、所得税・復興特別所得税・住民税がかかります。
一方で法人の場合は、売却によって得た所得に対して法人税等がかかるのが特徴です。
譲渡所得は「譲渡価格-(取得価格+譲渡費用)」で算出します。

 

1-3.低額譲渡に注意

前述のとおり、有償で財産を譲り渡した場合は、売却額と取得額の差額に対して税金がかかるのが一般的です。

しかし譲り渡した財産の時価よりも、低い価格で譲渡した場合は「低額譲渡」に該当します。

低額譲渡を行った場合、渡したのが個人で、受け取ったのが個人であれば、時価と売買価格との差額は、受け取った個人が渡した個人から贈与により取得したものとみなされ、贈与税がかかります。
また、受け取ったのが法人の場合であれば、受け取った法人には、時価と売買価格との差額は受贈益として法人税がかかり、仮に譲渡価格が時価の2分の1を下回っている場合には、渡した個人には時価を収入金額として所得税が算定されます。

次に、渡したのが法人の場合、渡した法人には、時価で譲渡したとみなされ、時価から取得費を差し引いた譲渡益に対して及び時価と売買価格との差額に対して渡した相手への寄附金・給与等となることによる法人税等がかかり、受け取ったのが個人の場合には、受け取った個人について時価と売買価格との差額が一時所得あるいは、給与所得として所得税等が、受け取った側が法人であれば、時価と売買価格の差額は、受贈益として法人税等が課されます。

 

2.贈与と譲渡の税金の違い

株式等の譲渡にかかる税金の申告について

個人が贈与を受けた場合には贈与税が、個人で譲渡した場合には所得税・復興特別所得税・住民税がかかります。

贈与と譲渡、それぞれの税金について、詳しく解説していきます。

 

2-1.贈与の場合にかかる税金

個人が贈与により財産を取得した場合、贈与税が発生します。
贈与税の基本的な計算手順や、財産の種類ごとの計算について紹介していきます。

贈与税の基礎知識
贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税制度」の2つの計算方法があり、基本的には暦年課税で計算します。
暦年課税の場合、贈与税は1年間に贈与を受けた財産の価額をすべて合わせ、基礎控除額110万円を引いた残りに対して税率を乗じて算定します。

基礎控除110万円を引いた結果が0以下になる場合、贈与税はかからないため申告は不要です。
税率は誰から贈与を受けたのか、また贈与を受けた人が何歳かによって「一般税率」と「特例税率」に分かれます。

贈与を受けた年の1月1日に18歳以上だった人が、両親や祖父母などの直系尊属から贈与を受けた場合は特例税率が適用されます。
なお、特例税率は下記をご参照ください。

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円
参照:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
それ以外の場合は一般税率が適用され、下記の税率により算定します。
基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円
参照:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
次に、以下の適用要件を満たしている場合は相続時精算課税制度を選択でき、届けを出すことで相続時精算課税制度による贈与税の算定が可能です。
● 贈与者:贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母もしくは祖父母
● 受贈者:贈与を受けた年の1月1日において18歳以上であり、かつ贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人もしくは孫

また、贈与税の申告期限内に贈与税申告と一緒に「相続時精算課税選択届出書」及び添付資料を提出する必要があります。

不動産の贈与

不動産の価額は基礎控除分110万円を超えるケースがほとんどのため、不動産を贈与されたら贈与税がかかると考えてよいでしょう。
不動産価格に税率をかけて贈与税を算定します。
原則として贈与税の申告納税は、財産を譲り受けた人が贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに行う必要があります。
不動産の贈与税は多額になる可能性があるため、納税資金を早めに準備しておきましょう。
また不動産を贈与され登記する場合は、登録免許税として不動産価格の2%の税金が課せられます。
この名義変更登記を行わないと、贈与で得た不動産について、事情を知らない第三者に主張できないため、なるべく早く名義変更登記をする必要があります。

株式の贈与

株式を譲り受けた場合、株式の時価に対して税率をかけて贈与税を算定します。
上場株式は評価額が公表されているため時価は容易に分かりますが、非上場株式は評価額が公表されていないため時価を計算しなければいけません。
非上場株式の評価方法は、下記の2つに分かれます。

● 原則的評価方式
● 特例的評価方式

株式の贈与を受けた方が、株式を発行した会社の経営支配力を持った同族株主などの場合は「原則的評価方式」、それ以外の株主の場合は「特例的評価方式」によって算定します。
原則的評価方式の場合、まず評価する株式を発行した会社について、総資産額、従業員数及び取引金額によって大会社・中会社・小会社に分類します。

大会社では「類似業種比準方式」により評価するのが一般的です。

類似業種の株価(市場で価格が決まる上場企業の株価等を参考)をもとに、評価する会社の「配当金額」「利益金額」「簿価純資産額」の3つを用いて評価を行う方法です。
小会社では原則として「純資産価額方式」により評価を行います。

会社の総資産や総負債を原則として相続税評価額により評価し、評価した総資産から総負債と評価差額の法人税等相当額を引いた純資産価格を算定する方法です。
中会社は、類似業種比準方式と純資産価額方式を併用するのが特徴です。
特例的な評価方式では、配当還元方式により評価します。
この方法は、その株式から得られる1年間の配当金額を、10%で還元して元本である株式の評価を行います。

 

2-2.譲渡の場合にかかる税金

譲渡所得には、所得税・復興特別所得税・住民税がかかります。
住民税は所得税の金額に対して市区町村が計算を行って通知してくれるため、自身で計算する必要はありません。
ここでは、譲渡所得に関する所得税について解説していきます。

譲渡所得による所得税の基礎知識

譲渡所得は何を譲渡したか、また譲渡した財産の所有年数によって、所得税の計算方法は異なります。

土地・建物等については、譲渡した年の1月1日において、所有期間が5年超のものは「長期譲渡所得」、5年以下のものは「短期譲渡所得」です。
土地・建物等の譲渡の場合、税率は短期譲渡が所得税30%・住民税9%、長期譲渡が所得税15%・住民税5%になり、長期譲渡所得のほうがかかる税金が少なくなります。

また、株式等の譲渡は所有期間に関わらず、所得税15%・住民税5%となるのが特徴です。

土地・建物等や株式等以外の財産を個人が譲渡した場合、その財産の取得の日から、5年を超えるもの(土地建物等の譲渡のように1月1日に遡る必要はありません。
)が総合長期譲渡所得と、5年以下のものが総合短期譲渡所得となり、給与所得や事業所得などほかの所得と合算して計算し、総所得の金額が多くなるにつれて税額が上がる「累進課税」制度となっています。

なお、長期譲渡所得の場合、その金額の2分の1が総合課税の対象になるため、短期譲渡と比べて長期譲渡のほうが税金が少なくなります。

不動産の譲渡
土地や建物といった不動産を譲渡する場合の譲渡所得の計算式は、下記のとおりです。

「譲渡価格-(取得費+譲渡費用)-特別控除額」

取得費には不動産の購入代金や建築代金、仲介手数料、登記費用、測量費などが含まれます。
なお先祖代々受け継いだ土地や、購入時期がかなり昔で取得費が分からないなどの場合は、譲渡価格の5%を取得費として譲渡所得を計算することができます。
譲渡費用は売却の仲介手数料、測量費や契約書の印紙税、建物の取り壊し費用など、譲渡するに際して直接要した費用です。

特別控除額とは、定められた要件を満たす場合にのみ受けられる控除です。

例えば、現在住んでいる家を譲渡する場合は「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」が受けられ、譲渡益から3,000万円控除できます。
このように特別控除額は金額が大きいため、適用すれば譲渡にかかる税金を大幅に下げられる可能性があります。

税額へ与える影響が大きいため、税理士や税理士法人に相談するのがおすすめです。

株式の譲渡
株式の譲渡では、下記の計算により譲渡所得を算定します。

「譲渡価格-取得費-手続きに要した費用」

ただし、上場株式の譲渡所得の場合は特定口座の「源泉徴収あり」を選択することで、原則として特定口座で得た譲渡所得についての確定申告は不要です。
申告不要となる便利な制度ですが、あえて確定申告したほうがよいケースもあります。

株式譲渡で損失が出た場合に確定申告をすることで、損失を最大3年間繰り越して、翌年以降の株式譲渡益と相殺し、所得額を下げられます。
また、確定申告をすることで、株式の損失を配当等と相殺して所得額を下げられるのもメリットです。

 

2-3.株式譲渡の損益通算

株式の配当等についても、所得税の対象です。
上場株式の配当等は上場株式の譲渡損と相殺して所得を少なくすることで、かかる税金を下げられます。
上場株式の売却で損失が出ており、かつ上場株式の配当を得ている場合は、確定申告をするほうが税金が少なくなります。
この制度を「損益通算」といいます。
また、複数の口座で株式等の運用をしているのであれば、口座間での損益通算も可能です。
ただし損益通算を行うには、株式等の譲渡について申告するのが条件です。

 

まとめ

贈与とは無償での財産譲り渡し、譲渡とは有償での財産譲り渡しのことです。
譲渡の場合は、譲渡したのが個人であれば所得税・復興特別所得税・住民税がかかり、法人であれば譲渡益に対して法人税等がかかります。

ただし、低額譲渡では贈与とみなされる場合もあるため、注意しましょう。
贈与の場合、受贈者が個人の方の場合は贈与税、法人であれば譲受益に対して法人税等がかかります。

所得税は、不動産の譲渡に多額の譲渡所得が発生し、発生する所得税も多額になるケースが多いものの、特別控除の適用を受けることで所得税を大幅に抑えられる場合もあります。

贈与税について相続時精算課税制度をうまく活用することで、贈与税と相続税のトータル税額を大きく抑えられるかもしれません。
どうすれば税額が下げられるかは専門的な知見が必要なため、税理士または税理士法人に相談してみるとよいでしょう。

監修者情報

杉田 透(すぎた とおる)

税理士法人スマッシュ経営

杉田 透(すぎた とおる)

資格:税理士

経歴

1959年
愛知県豊田市生まれ
1980年
名古屋国税局採用
2010年
法人税担当統括官
2020年
名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 知立本社入社
所属税理士となる

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俳優・竹中直人さんによるWEB経済番組「発見!課題解決カンパニー」に出演しました。

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