税務情報
2025.01.28
持株会の配当金を受け取った場合の確定申告の書き方!配当控除についても解説!
持株会の概要と配当金にかかる税金について
まず持株会とは何か、持株会の配当金にかかる税金や負担する人について解説していきます。
持株会とは?
従業員や役員が拠出額に応じて自社の株式を取得できる制度を「従業員持株制度」といい、制度を運営する機関を「持株会」と表現します。
自社株を保有することで財産形成を支援したり、自社への参加意識を高めたりする目的で導入されるのが一般的です。
企業は持株会に加入している従業員の給与から天引きして、自社株取得のための拠出金に充てます。 なお、従業員持株会の計画に沿って毎月定時定額で行われる買い付けは、インサイダー取引の対象外です。 ただし、重要情報を知っていながら拠出額を増加したり、新規で持株会に加入したりするのはインサイダー取引の対象となります。
持株会の配当金にかかる税金を負担する人
企業で出た利益の一部は、株式を保有する割合に応じて配当金として株主に還元されます。
配当金に対しては所得税がかかりますが、税金を負担するのは配当金を受け取った人です。持株会の配当金も同様で、持株会で取得した自社株からの配当金を得た従業員自身が税金を負担します。つまり配当金を受け取るのは持株会ですが、所得税の課税対象者は最終的に配当金を受け取る持株会の構成員であり、この課税方式は「パススルー課税」と呼ばれます。
配当金にかかる税金の種類
受け取った配当金には所得税と住民税がかかり、受け取った時点で源泉徴収されます。
税率は上場株式の場合は所得税・復興特別所得税15.315%と、住民税5%の計20.315%です。例えば配当金が40,000円の場合は、20.315%をかけた税金分の8,126円が引かれ、手取り金額は31,874円となります。なお、持株会で受け取る配当金は自社株の取得に充てられ、入金されずに資産形成されるのが一般的です。つまり、配当金は自社株取得のために再投資されているため、現金での受取はできません。
持株会の配当金は確定申告が必要?
持株会の配当金にも所得税と住民税がかかると解説しましたが、確定申告をする必要があるのかを解説していきます。
原則として確定申告は不要
配当金に関する税金は、原則として確定申告が不要です。上場企業の株式による配当金は、支払時に所得税と住民税の税金20.315%が差し引かれているからです。差し引かれた税金は配当をした会社を通して納付されるため、確定申告をせずとも税金の納付が完了します。
あえて確定申告したほうがいいケース
先ほど解説したとおり、配当金に関する税金は原則として確定申告は不要ですが、あえて確定申告を行うことで支払う税金の総額が少なくなる場合があります。次の例を見てください。所得税は、所得金額が大きくなるほど税率が大きくなる「累進課税制度」です。例えば、所得が3,299,000円までの場合は所得金額に対して10%の税率を乗じ、そこから控除額を引いた金額が納付する所得税となります 。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
出典:国税庁HPタックスアンサー「No.2260 所得税の税率」
ところが、配当金には、前述のとおり、所得税及び復興特別所得税として15.315%が引かれているので、給与や配当金を含めた合計の所得が3,299,000円まで以下の場合は15.315%より低い税率が適用されるため、配当金から引かれている税金は本来の税率より多いという結果となってしまい、確定申告すれば払いすぎた税金を取り戻すことができます。
さらに、所得税には「配当控除」という仕組みがあります。 次に配当控除とは何かを確認していきましょう。
配当控除とは
配当控除とは、配当所得を総合課税で申告した場合に、所得税や住民税が軽減される仕組みです。出資者がその出資先の法人から受け取る配当金は、すでに法人税が課税された後のお金を配当金として分配したものです。通常は配当は法人税が引かれた後の利益から株主に分配します。しかし、出資者に配当する際、所得税などが源泉徴収されるため、法人税と所得税の二重課税という現象が起こります。この二重課税部分を解消するために設けられたのが配当控除です。具体的には、配当控除は、課税所得が1,000万円以下であれば、所得税については配当所得の10%、住民税については配当所得の2.8%が控除されます。なお、後ほど説明しますが、課税所得が多くなれば配当控除も少なくなっていきますので、注意してください。ただし、配当控除を受けるには、確定申告の際に配当控除に関する記載をしなければいけないため注意しましょう。
配当控除の効果
配当控除で納付する税金が少なくなる仕組みについて、さらに解説していきます。先ほど「累進課税制度」で解説した表を再度ご覧ください。が、例えば、所得が6,949,000円までの場合は所得金額に対して税率は20%でした。。ここで、先ほど解説したとおり、課税所得が1,000万円以下の場合、配当控除として10%が控除されますので配当所得における実質税率は、20%-10%=10%(復興特別所得税を加味すれば10.21%)となります。次に住民税ですが、配当所得を申告する場合の税率は一律10%で、配当控除は、同様に課税所得が1,000万円以下の場合は2.8%ですので、実質税率は10-2.8=7.2%の税率となります。したがって、合計税率が17.2%(17.41%)となります。配当金には、前述のとおり、税金分として国税・地方税合わせて20.315%が引かれているので、配当金から引かれている税金は本来の税負担額より多いという結果となっていることが伺えます。では、どこまでの所得金額が申告すれば有利かということを計算してみましょう。
・課税所得金額8,999,000円までの場合
(23%-10%:復興税加味13.273%)+(10%-2.8%)=20.473%>20.315%となり、不利
・課税所得6,949,000円までの場合
(20%-10%:復興税加味10.21%)+(10%-2.8%)=17.41%<20.315%となり、有利
以上のとおり、申告すれば有利になるのは、累進税率20%の適用となる課税所得金額694万9,000円までの場合です。ただし、確定申告することで配偶者控除などの各種所得控除や住民税・国民健康保険料などに影響を及ぼす可能性もありますので注意してください。
次に、実際に所得に応じた配当控除の金額を計算してみましょう。(配当控除の金額は算出税額の金額を限度とします。)
課税総所得金額が1,000万円以下の場合の配当控除の金額の計算
配当控除の額 = 配当所得 × 10% |
ケース1 課税総所得金額が600万円で、うち配当所得が60万円であった場合
配当控除の額 6万円 = 配当所得 60万円 × 10%
課税総所得金額が1,000万円を超えた場合の配当控除の金額の計算 配当控除の額 = イ × 10% + ロ × 5% イ* = 配当所得金額 - (課税総所得金額 - 1,000万円) ロ = 配当所得金額 - イ* (イの値がマイナスの場合はゼロとします。) |
ケース2 課税総所得金額が1,025万円、うち配当所得が60万円であった場合
イ = 60万円 - (1,025万円 - 1,000万円)= 35万円*
ロ = 60万円 - 35万円*= 25万円
配当控除の額 4.75万円 = 35万円 × 10% + 25万円 × 5%
ケース3 課税総所得金額が1,150万円、うち配当所得が60万円であった場合
イ = 60万円 -(1,150万円 - 1,000万円)< 0 → ゼロとなります。
ロ = 60万円 - 0円 = 60万円
配当控除の額 3万円 = 0万円 × 10% + 60万円 × 5%
詳しくは、国税庁「№1250 配当所得があるとき(配当控除)」を確認してください。
持株会の配当金の確定申告書の書き方
持株会の配当金を含めて確定申告をする際に、確定申告書にはどのように書くのかを解説していきます。
確定申告書の書き方
確定申告書にはそれぞれの収入と所得を記入する欄、および源泉徴収された金額を記入する欄があります。 配当収入は、税金分が引かれる前の配当額を記入します。配当所得は以下の計算式により算定して記入してください。 収入金額(源泉徴収税額を差し引く前の金額) - 株式などを取得するための借入金の利子 = 配当所得の金額 給与収入と給与所得に関して年末調整を受けている場合は、会社から「源泉徴収票」が渡されます。 源泉徴収票には給与収入と給与所得の金額が記載されているため、そのまま確定申告書に記入しましょう。
e-Taxからの申告方法
確定申告をする際は紙媒体で確定申告書を記入する方法と、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で作成し、「e-Tax」で電子的に申告する方法があります。電子媒体による申告はスマホからも可能です。指示どおりに必要事項を入力すれば確定申告ができます。 配当等の種類の入力に応じて配当控除の額が自動で計算されるため、紙媒体での記入よりも負担が減ります。 また、電子媒体で申告する場合は税務署に行く必要がありません。確定申告時期は税務署が混み合うため、税務署に行かなくて済むのはメリットです。 電子媒体で申告をする際はマイナンバーカードがあるとスムーズなので、あらかじめ取得しておくとよいでしょう。
スマホから確定申告する方法について詳しくはこちら
まとめ
勤めている会社の持株会に加入しており、配当金を受け取った場合、基本的に確定申告は不要です。ただし合計の所得が6,949,000円までであれば、確定申告をしたほうが納付すべき税金が少なくなります。そのため、税金を少なくしたいのであれば、自身で確定申告をするのもよいでしょう。確定申告をする際は電子申告が便利で、国税庁からもマニュアルが出ています。Web上で閲覧できるため、活用しながら進めましょう。なお、持株会の配当金の申告を含めて確定申告でお悩みの方は、税理士に相談するのがおすすめです。プロのサポートを受けながら、スムーズに確定申告を進めましょう。
監修者情報
税理士法人スマッシュ経営
杉田 透(すぎた とおる)
資格:税理士
経歴
- 1959年
- 愛知県豊田市生まれ
- 1980年
- 名古屋国税局採用
- 2010年
- 法人税担当統括官
- 2020年
- 名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 知立本社入社
所属税理士となる