税務情報
2024.12.05
配当金の確定申告はいくらから必要?手続きの方法や注意点を解説
個人事業主はその年の所得が一定の金額を超えると、確定申告が必要となります。
しかし、確定申告のやり方が分からずに悩んでいる方も多いでしょう。
そこで本記事では、そもそも確定申告とは何か、個人事業主が行うべき手続きについて解説します。
最後までご覧いただき、個人事業主が行うべき確定申告への不安を解消しましょう。
目次
1.配当金を受け取った場合はいくらから確定申告が必要?
まずは株の配当金を受け取った場合、いくらから確定申告が必要なのか解説していきます。
1-1.原則として確定申告は不要
結論、株の配当金を受け取った場合でも、原則として確定申告は不要です。
配当金が支払われる際、20.315%(所得税:15.315%・住民税:5%)が源泉徴収されているためです。
源泉徴収とは、給与や報酬などを支払う際に所得税を差し引き、代わりに納税される制度を指します。
この源泉徴収により、株の配当金を受け取ったとしても、所得税の確定申告をせずに納税を終えることができるのです。
ただし、受け取った配当金が以下の要件に該当する場合は、確定申告が必要となります。
- 非上場株式の配当金を受け取った
- 上場株式の配当金で大口株主(発行済株式の3%以上保有)である
後ほど詳しく解説していますが、上記の場合は確定申告をしなければいけないため、注意しましょう。
1-2.20万円を超える利益があると確定申告が必要な場合も
株の配当金を受け取った際に20万円を超える場合は、確定申告が必要なケースがあります。
まず、株の取引を行う口座は大きく以下の3つに分けられます。
- 一般口座
- 特定口座
- NISA口座
しかし、一般口座と特定口座(源泉徴収なし)で取引している場合は、源泉徴収されません。
所得税が差し引かれていないため、確定申告を通じて納税が必要です。
なお、特定口座を利用している場合は「特定口座年間取引報告書」が証券会社から発行されるため、申告は比較的スムーズにできます。
しかし、一般口座の場合は、証券会社から発行される「取引残高報告書」をもとに、自力で計算する必要があるため、申告手続きが煩雑になる傾向があります。
それぞれの口座の違いや特徴を把握しておきましょう。
2.配当金の確定申告が不要な場合と必要な場合
ここでは配当金を受け取った場合に、確定申告が必要なケースと不要なケースについて、さらに詳しく解説していきます。
2-1.配当金の確定申告が不要な場合
まずは、一般的な「確定申告不要」制度から解説していきます。
NISA口座での取引
NISA口座で取引していた株であれば、基本的に確定申告が不要です。
原則として、NISA口座で取引して得られた利益には課税されず、配当金にも税金がかからないためです。
前述のとおり、上場株式の配当金には20.315%の源泉徴収が適用されます。
しかし、NISA口座で受け取る配当金には課税されずに、配当金の全額を受け取ることができます。
例えば、配当金が1万円の場合、通常の課税口座では約7,968円が受け取り額ですが、NISA口座では1万円がそのまま受け取れる仕組みです。
ただし、NISAで無条件に配当金が非課税になるわけではなく、配当金の受け取り方法を「株式数比例配分方式」にする必要があります。
この方式でない場合は税金が課されるため、事前に確認しておくことが重要です。
利益が20万円以下
先ほど、特定口座(源泉徴収なし)もしくは一般口座であれば、確定申告が必要だと解説しました。
しかし、給与所得者などで配当金や株式の譲渡益を含む、本業以外の収入が年間20万円以下であれば確定申告は不要です。
ただし、20万円以下で確定申告が不要となるのは「所得税」のみで、住民税の確定申告は必要な点に注意しましょう。
出典:国税庁「確定申告が必要な方」
源泉徴収ありの特定口座を利用
特定口座(源泉徴収あり)で株式取引を行っている場合は、すでに源泉徴収によって税金が引かれているため、原則として確定申告の必要はありません。
また、株式の売買で発生した株式譲渡益がある場合についても、同様に源泉徴収されていることから同じ扱いです。
なお、税金の計算や源泉徴収による納税は証券会社が行っているため、特定口座(源泉徴収あり)で取引を行うと、手続きが簡単で手間もかかりません。
確定申告の手間を省きたい方は、特定口座(源泉徴収あり)を選択するのも一つの方法です。
2-2.配当金の確定申告が必要な場合
ここからは、配当金を受け取った場合に確定申告が必要となるケースについて、解説していきます。
利益が20万円を超える
前述の通り、特定口座(源泉徴収なし)で20万円を超える配当金を受け取った場合は、確定申告が必要となります。
源泉徴収されないため「特定口座年間取引報告書」を入手して確定申告書を作成し、自身で提出する必要があります。
特定口座の場合でも2種類に分かれているため、注意しましょう。
大口株主や上場していない株式の配当金を受け取った
大口株主や上場していない株式の配当金を受け取った場合は、原則として確定申告が必要です。
上記の配当金には、所得税として20.42%の源泉徴収が行われますが、住民税は源泉徴収されないためです。
したがって、後ほど解説する「総合課税」で確定申告が求められます。
なお、配当金1回当たりの額が「10万円以下 × (配当金の計算期間÷12ヶ月)」の場合は、所得税の確定申告が不要ですが、住民税は申告する必要があります。
大口株主や非上場株式の配当金を受け取る際は、必要な対応を確認し、確定申告を適切に行いましょう。
2-3.配当金の確定申告をしたほうが良い場合
ここからは確定申告が不要な場合でも、手続きをしたほうが良い例について解説していきます。
譲渡損失が発生
1年間トータルの株式取引において、譲渡損失がある場合は、確定申告によって所得税の還付を受けられる可能性があります。
申告分離方式と呼ばれる方式を選択すると、配当金と譲渡損失を「損益通算」することができるためです。
また、損益通算をしても損失が残る際は、翌年以降3年間は損失を繰り越すことが可能です。
繰り越された譲渡損失は、翌年以降の譲渡益と相殺されるため、翌年以降の税金を抑える効果が期待できます。
課税所得が695万円以下
課税所得が695万円以下の人は「総合課税」と呼ばれる制度で確定申告を行うと、課税額を抑えることができます。
なぜなら、配当控除の制度を利用するためです。
配当控除とは、二重課税を解消することを目的に設けられた制度で、所得税10%・住民税2.8%分の税額が控除される仕組みです。
ただし、すべての人に適応されるわけではなく、課税所得が695万円以下の人に限定されます。
課税所得は年収を指しているわけではないため、混同しないようにしましょう。
3.確定申告をして配当控除を受ける方法
ここからは、確定申告により配当控除を受ける方法を解説していきます。
3-1.総合課税
総合課税とは、所得金額を合計して税額を計算する方法であり、所得が多いほど税率が高くなる「累進課税制度」が適用されます。
配当控除を受けるための確定申告では、必ず「総合課税」を選択する必要があります。
なお、総合課税を選ぶと累進税率が適用されるため、課税所得が695万円以下であることが総合課税を選ぶ際の目安です。
こ課税所得が695万を超えると税率が上がり、かえって不利になる点に注意しましょう。
3-2.申告分離課税
申告分離方式の場合、配当控除を受けることはできません。
前述の通り、配当控除は総合課税を選択した場合にのみ適用される制度のため、注意しましょう。
ただし、申告分離課税を選択するメリットもあります。
例えば、上場株式などの売却で損失が出ている際に申告分離課税を選択すると、配当所得との損益通算が可能です。
その結果、配当で得た利益が損益通算により減少するため、配当金から源泉徴収された税金が還付されます。
課税所得金額や株式の譲渡損がある場合かどうかで、どちらの課税方式を選択するのが良いのか変わるため、自身の状況で判断することが重要です。
4.配当金の確定申告における注意点
配当金を受け取った際に行う確定申告について、注意点を解説していきます。
4-1.配当所得から経費は差し引けない
配当所得から控除できる経費は、株式や投資信託を取得するために金融機関から借入を行った場合の利子のみです。
配当金を受け取った場合の「配当所得」は、以下の式で計算されます。
「配当所得=収入金額(源泉徴収税額控除前)-株式等を取得するための借入金の利子」
そのため、個別にかかった経費や費用は控除ができません。
4-2.健康保険料に連動している
総合課税により確定申告を行うと、連動して住民税と健康保険料が計算されます。
確定申告書を税務署に提出すると、市町村へ申告情報が共有されて、住民税や健康保険料が算出されるためです。
したがって、確定申告を行い所得税や住民税が減額される場合でも、連動して健康保険料が割高になる可能性があります。
トータルで判断して、課税額を抑えられるのか、かえって割高になってしまうのか見極めましょう。
4-3.NISAの限度額超過分は確定申告が必要となる
令和6年1月から開始された新NISA制度では、年間360万円まで投資が可能となりました。
つみたて投資枠は年間120万円、成長投資枠は年間240万円が上限額となり、併用することも可能です。
ただし、NISAにおける投資枠超過分は課税口座扱いとなるため、場合によっては確定申告が必要です。
NISAの投資枠を超えそうな場合は、翌年まで待つなどの方法を検討しましょう。
まとめ
本記事では、配当金を受け取った場合、いくらから確定申告が必要かについて解説しました。
株の配当金を受け取っても、原則として確定申告は不要ですが、20万円を超える利益があると確定申告をしなければいけないケースもあります。
中でも、一般口座と特定口座(源泉徴収なし)で取引している方は源泉徴収されないため、20万円を超える利益がある場合は自らで確定申告しましょう。
また、所得税のほかに住民税にも考慮にする必要があり、やや複雑な仕組みとなっています。
手続きの煩雑さを解消したいならば、NISA口座の検討や、特定口座の源泉徴収ありを選択すると良いでしょう。
監修者情報
税理士法人スマッシュ経営
杉田 透(すぎた とおる)
資格:税理士
経歴
- 1959年
- 愛知県豊田市生まれ
- 1980年
- 名古屋国税局採用
- 2010年
- 法人税担当統括官
- 2020年
- 名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 知立本社入社
所属税理士となる