医業 / 経営情報

2024.10.02

医療法人がM&Aを行うには?M&Aの手法やメリットを解説

M&Aは、「企業の合併や買収」を意味する言葉であり、主に経営権を取得・譲渡する取引を指します。近年では幅広い業界におけるM&Aが増加傾向にあり、医療業界も例外ではありません。

また、医療業界においては個人が経営する病院・診療所と、医療法の規定にもとづき法人によって設立される医療法人の2つがあります。近年、人材不足や後継者不足によってM&Aを検討する医療法人も少なくありません。

当記事では、医療法人の概要・抱える課題・M&Aを行うメリットから、医療法人によるM&Aの主なスキーム、さらに医療法人がM&Aを成功させるためのポイントまで紹介します。医療法人のM&Aを検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。

 

1.医療法人とは?

医療法人とは、医師や歯科医師が常時勤務する病院・診療所、介護老人保健施設の開設を目的として、医療法の規定にもとづき設立された法人です。

個人病院・クリニックとの大きな違いは「営利目的の活動の可否」であり、医療法人は非営利性が求められることから余剰金の配当も禁止されています。2007年4月の改正医療法では、出資持分なしの医療法人しか新設が認められなくなりました。しかし、医療法が改正される前に設立された医療法人は現在も多く存在することが実情です。

なお、医療法人には「社団医療法人」と「財団医療法人」、さらに「特定医療法人」の3つの種類に分けられます。

社団医療法人 主に医療の提供を目的に、医師や歯科医師をはじめとした医療関係者の集まりが基盤となって設立された医療法人です。
財団医療法人 主に医療の発展を目的に、財産が基盤となって設立された医療法人です。
特定医療法人 医療法や租税特別措置法の規定にもとづく特別な類型です。厳格な要件を満たし、国税庁長官からの承認を受けた医療法人となります。

 

1-1.医療法人が抱える課題

多くの医療法人は、経営難につながるさまざまな課題を抱えています。代表的な課題としては、「人材不足」や「政府による国民医療費の抑制政策」が挙げられます。

高齢化によって医療の需要が年々高まりつつある近年、労働人口の減少による人材不足問題は医療業界全体の大きな課題とも言えます。「このままでは後継者の確保もできない」という状況から脱却するために、M&Aで事業継承を検討する医療法人は少なくありません。

 

1-2.医療法人がM&Aを行うメリット

医療法人がM&Aを実施することで、下記のメリットを得られます。

  • 後継者問題の解消
  • 医療従事者の雇用の維持
  • 患者の利便性の維持
  • 経営負担の軽減

M&Aは、医療法人における深刻な問題と言っても過言ではない「後継者の不在」を解決する有効な手段です。後継者の不在による廃業を避けることで、医師・看護師・受付職員といった従業員全員の雇用や地域患者の利便性を維持できます。

また、買い手側または合併した場合の双方のメリットとしては、経営負担の軽減も挙げられます。共通する経営資源を互いに活用・連携することで、経営にかかるさまざまなコストの削減が可能です。

 

2.医療法人がM&Aを行うときのスキーム(手法)

M&Aにおけるスキームとは、M&Aを実行する枠組みのことを指します。

一般的な業界のM&Aでは「株式譲渡」「株式移転」などのスキームがよく用いられます。しかし、医療法人は営利法人にあたる株式会社が経営するわけではないため、医療法人のM&Aでは存在しないスキームとなります。

医療法人におけるM&Aには、主に「出資持分の譲渡」と「事業譲渡」、さらに「合併」、「分割」の4つのスキームがあり、出資持分の有無によって選択できる手法が異なります。

ここからは、各スキームの概要やメリット・デメリットを説明します。

 

2-1.出資持分の譲渡

出資持分ありの社団医療法人が選択できるスキームです。そもそも出資持分とは、設立時の出資者が医療法人に対して有する持分割合、いわば出資割合に応じた財産権のことで、株式会社における株式または資本金にあたります。

出資持分有の社団医療法人は、売り手(譲渡側)が財産となる持分を買い手に譲渡することでM&Aを実施できます。買い手(譲受側)は、売り手から出資持分をすべて買い取るだけで、廃止届や開設許可申請といった手続きの必要なくスムーズにM&Aを進められます。ただし、売り手が抱えていた負債などのリスクもそのまま承継される点に注意が必要です。

 

2-2.事業譲渡

事業譲渡とは、売り手の医療法人が手がける事業のすべてまたは一部を買い手の医療法人に譲渡し、事業の引き継ぎを図るスキームです。買い手は事業承継をする代わりに、譲渡対価として売り手に金銭を支払います。

医療法人が事業譲渡のスキームを選択した場合は、経営主体が変わることから売り手は医療機関の廃止の届出を、そして買い手は開設の届出を行う必要があります。売り手が保有していたスタッフは一度退職する形となるため、買い手は雇用を結びなおさなければなりません。

事業譲渡は、引き継ぎの対象となる取引や経営資源ごとに手続きが必要となるため手間と時間を要します。しかし、事業の種類やエリアの選択・集中を図りたい売り手にとっては最適なスキームであり、買い手にとっては「法人にかかわるさまざまなリスクを遮断できる」というメリットのあるスキームと言えるでしょう。

 

2-3.合併

合併とは、2つ以上の法人格が合併契約を締結することによって、1つの法人格に統合させるというスキームです。「新設合併」と「吸収合併」の2パターンに大別されています。

新設合併とは、合併契約を締結する2つ以上の法人格をすべて消滅させ、新たに設立する医療法人に統合する手法です。

そして吸収合併とは、消滅する医療法人が保有していた権利や経営資源を、存続させる法人格がすべて引き継ぐ手法であり、合併によるM&Aの多くがこの吸収合併となっています。

合併の場合は、医療審議会を経て行政からの許可を受ける必要があり、ほかのスキームと比べて時間がかかる傾向です。税務問題なども深く関係するため、M&A仲介会社や税理士、公認会計士といった専門家への相談は必須と言えるでしょう。

 

2-4.分割

分割とは、売り手の医療法人が手がける事業のすべてまたは一部を買い手の医療法人に分割し、事業の引き継ぎを図るスキームです。事業譲渡とやや似ているものの、分割は事業譲渡と違って債権者への個別承諾が必要ないほか、売り手が保有していた医療従事者の労働契約もそのまま承継できます。

また、分割にも「新設分割」と「吸収分割」があります。新設分割は新たに設立する医療法人に事業を承継させる方法で、吸収分割は主に買い手の医療法人に事業を承継させる方法です。分割は売りたい事業・買いたい事業を柔軟に分割できる点がメリットであり、組織再編の手法として有効なスキームと言えます。

ただし、出資持分ありの医療法人は分割によるM&Aを選択できない点に注意が必要です。

 

3.医療法人がM&Aを成功させるためのポイント

医療法人がM&Aを成功させるためには、下記3つのポイントをおさえておきましょう。

●準備を早めに行う

M&Aの実施にあたっては、関係者からの賛同や資料作成などさまざまな準備が必要です。準備だけでも多くの時間と手間が発生するので、できる限り早い段階で進めておくようにしましょう。

●資産の整理を行う

買い手を探している医療法人がM&Aを成功させるためには、資産整理が重要です。医療法人の譲渡価格が大きいほど、買い手に負担を強いることとなります。買い手は取引に対してより慎重になるため、取引が成立しにくくなるでしょう。不要な資産の整理は、スムーズなM&Aの成立に大きくつながります。

●M&Aの専門家によるサポートを依頼する

医療法人のM&Aには専門的な知識が必要となるため、M&A仲介会社や税理士などの専門家によるサポートが欠かせないと言っても過言ではありません。M&Aの専門家は、取引先の選定から契約の締結まで幅広い仲介業務を支援してくれます。専門家を選ぶときは、医療業界における実績があるかどうかもチェックしておきましょう。

 

まとめ

人材不足や後継者不在といったあらゆる課題の解決に向けて、M&Aを検討する医療法人は少なくありません。

医療法人のM&Aでは、出資持分の譲渡や事業譲渡、合併、分割の4つのスキームがあります。それぞれメリット・デメリットがあるため、M&Aの目的や実施後の計画に応じて適切なスキームを選択しましょう。

医療法人のM&Aを成功させるためには、資産整理を含む事前準備を早い段階で行っておくことに加えて、M&Aの専門家に仲介業務をサポートしてもらうことも大切です。ここまでの内容を参考に、ぜひ医療法人のM&Aに詳しい専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

監修者情報

杉田 透(すぎた とおる)

税理士法人スマッシュ経営

杉田 透(すぎた とおる)

資格:税理士

経歴

1959年
愛知県豊田市生まれ
1980年
名古屋国税局採用
2010年
法人税担当統括官
2020年
名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 知立本社入社
所属税理士となる

この記事は専門家による監修を受けて作成されていますが、内容の誤りや不正確性によって、読者が何らかの損害を被る場合でも、当法人はその責任を一切負わないものとします。

同じカテゴリの記事

COMPANY
愛知県内の3拠点、知立・岡崎・名古屋から全国に向けて、税務・会計を徹底サポート!