経営情報

2024.08.23

M&Aはどのような流れで行う?フェーズごとに詳しく解説

企業の成長戦略や課題解決の手段としてM&A(企業の合併・買収)を検討している企業も多いでしょう。しかし、M&Aを成功させるには周到な準備と適切なプロセスが欠かせません。

当記事では、M&Aを成功に導くための各フェーズについて詳しく解説します。M&Aにどのようなステップが必要なのかを理解し、計画的に進めることで、M&Aの成功率を高められるでしょう。

 

1.M&Aの準備フェーズの流れ

M&Aを具体的に進める際は、売り手側の譲渡企業、買い手側の譲受企業のいずれであってもM&Aに向けた事前準備が必要です。

ここではM&Aの準備フェーズで行うべき2つのプロセスを解説します。

 

1-1.M&Aの検討

最初に、自社が行うM&Aについて検討をしましょう。M&Aの目的を明確化したり、M&Aの情報収集を行ったりします。

M&Aの目的は、M&Aを検討する企業ごとに違いがあります。以下のポイントを検討し、自社がM&Aによって何を達成したいかを明確化してください。

  • M&Aで解決したい課題は何か
  • 課題の解決方法はM&Aが最適か
  • 売り手側、買い手側のどちらになるべきか
  • M&Aスキーム(株式譲渡・株式交換・事業譲渡・事業承継など)は何が適しているか
  • M&Aで譲渡、もしくは譲受したい内容は何か
  • M&Aの予算や規模はどの程度か
  • M&Aの完了予定日はいつか

目的が曖昧なままM&Aを進めると、M&A先探しや交渉などでつまづきやすくなります。自社がM&Aを行う目的は必ず定めましょう。

また、M&Aをスムーズに進めるにはM&Aの知識が必要です。Webサイトや経営セミナーを活用したり、M&Aの専門家に尋ねたりすることで情報収集が行えます。

 

1-2.M&Aの相談先の選定

次に、M&Aの相談先を選定しましょう。代表的なM&Aの相談先をいくつか紹介します。

・弁護士

M&Aの契約書を作成する際、弁護士に相談していればサポートを受けられます。

・税理士

税理士は、M&Aについて財務・税務面を中心にアドバイスや支援を受けられます。

・M&A仲介会社

M&A先の選定や交渉などについて支援を受けられます。

・金融機関

地域のM&A先候補を紹介してくれたり、資金調達の相談ができたりする相談先です。

・商工会議所

中小企業の経営・M&A支援を行ってくれる可能性があります。

相談先によってはM&A支援を行っていないケースもあるため、M&Aの支援実績を確認することが大切です。また、依頼した場合の報酬額や手数料がどの程度かも確認しましょう。

自社が行いたいM&A内容や規模・予算に合う、信頼できる相談先を選ぶことで、M&Aの成功率を高められます。

 

2.M&Aのマッチングフェーズの流れ

M&Aの事前準備が終わった後は、いよいよ実際のマッチングを開始します。

マッチングフェーズではノンネームシート・リスト・NDA・企業概要書など作成が必要な書類が多いため、専門家に相談しながら進めましょう。

M&Aのマッチングフェーズを4つに分けて、それぞれの進め方を解説します。

 

2-1.ノンネームシートの作成

ノンネームシートとは、特定されない範囲で企業情報をまとめた書類です。M&Aの候補企業を探すことを目的として、譲渡企業が作成します。

M&Aのマッチングでは自社の情報を相手に伝える必要があるものの、制限なく情報開示をすると、「事業売却・会社売却を考えている」という噂が広まる可能性があります。ノンネームシートは情報の漏洩を防ぎ、譲渡企業の匿名性を維持したままマッチングを進めるために必要です。

ノンネームシートには、主に下記の項目を記載します。

  • 自社の業種や業界
  • 本社がある地域
  • 従業員数
  • 売上高
  • 譲渡の理由
  • M&Aスキーム
  • M&Aの希望時期

従業員数や売上高は大まかな数字の記載で問題ありません。作成方法が分からない場合は、専門家に相談しましょう。

 

2-2.リストの作成

次に、M&Aの候補先企業をまとめたリストを作成します。リストにはロングリストとショートリストがあります。

ロングリストとは、広範な条件で候補先をまとめたリストです。M&Aの候補となる可能性がある企業を漏らさずリストアップすることで、可能性がない企業を候補から排除できます。

もう1つのショートリストとは、ロングリストで挙げた候補先の中から、より詳細な条件で候補先を絞り込んだリストです。候補先の絞り込みを行って、候補先の選定に活用します。

なお、リストは譲渡企業・譲受企業のいずれも作成が必要です。

 

2-3.NDAの締結

リストからM&A相手を決定した後は、相手企業とのNDA(秘密保持契約書)を締結します。

NDAとは、取引などで得た秘密情報について、目的外での使用や第三者への漏洩・開示を禁止する契約です。NDAの締結により、自社・相手企業の双方に秘密情報を保護する義務が発生し、情報の漏洩や悪用によるリスクを防げます。

M&AでNDAを締結する際は、秘密情報の定義を必ず行いましょう。M&Aでは譲渡企業・譲受企業の間でさまざまな情報をやり取りするため、開示した情報のうちどこまでが秘密であるかを明確にする必要があります。

 

2-4.企業概要書の提示

NDAの締結後、譲渡企業が譲受企業へと企業概要書を提示します。

企業概要書とは、譲渡企業の詳細な情報を記載した資料です。譲受企業は企業概要書をもとに譲渡企業の評価を行い、M&Aの交渉を行うかどうかを判断します。

企業概要書には主に下記の項目を記載します。

  • 企業概要(エグゼクティブサマリー)
  • 事業内容
  • 組織
  • 財務状況
  • 譲渡の理由
  • 許認可や法規制の内容
  • 固定資産と設備の状況
  • 事業計画

譲渡企業が企業概要書を作成するときは、一般的に相談先の専門家に作成を依頼します。作成にあたっては専門家による企業の調査や経営者へのインタビューが行われるため、譲渡企業は協力することが大切です。

 

3.M&Aの交渉フェーズの流れ

マッチングフェーズでM&A先が決まったら、次はM&A先との交渉に移ります。

M&Aの交渉には決まった手順があり、M&A締結に向けたさまざまな確認・交渉が行われます。以下で紹介する流れを把握し、交渉フェーズをきちんと進められるようにしましょう。

 

3-1.トップ面談の実施

トップ面談とは、譲渡企業と譲受企業の経営者同士が直接顔を合わせる面談です。なお、トップ面談は通常、数回にわたって行います。

トップ面談の目的は、譲渡側と譲受側の経営者が相互に理解を深めることです。面談を通して、相手企業のトップである経営者の人間性や経営理念・ビジネスモデルを確認し、自社についても相手企業に詳しく知ってもらいます。

トップ面談を成功させるには、面談の場において条件交渉は行わないようにしましょう。

トップ面談は交渉の一部ではあるものの、実質的には両社の顔合わせが目的です。M&Aの条件については基本的な内容の確認・すり合わせを行って、協力し合える雰囲気を作ることが重要と言えます。

 

3-2.基本合意の締結

トップ面談においてM&A交渉の意思を確認できた後は、譲渡企業と譲受企業の間で基本合意書を作成し、基本合意を締結します。

基本合意書とは、M&Aの基本的な内容について、譲渡企業と譲受企業の双方が合意できたことを確認するための書類です。

基本合意書には主に下記の項目を記載します。

  • 譲渡、譲受の対象
  • M&Aスキーム
  • おおまかな譲渡価格
  • M&Aのスケジュール
  • デューディリジェンスの実施
  • 雇用や役員の引き継ぎ
  • 独占交渉権の付与
  • 秘密保持義務の設定
  • 善管注意義務
  • クロージングの前提条件
    など

なお、「デューディリジェンスの実施」「秘密保持義務」「独占交渉権の付与」など特定の項目を除き、基本合意書の内容には一般的に法的拘束力を持たせません。

 

3-3.デューディリジェンス

基本合意の締結後、デューディリジェンスを実施します。

デューディリジェンスとは、譲受企業が譲渡企業に対して行う調査活動のことです。買収監査とも呼ばれ、譲渡企業の財務・事業・法務・税務・人事などを調査し、譲受によるリスクがないかや事業の将来性があるかをチェックします。

デューディリジェンスでは、一般的に譲受企業が専門家からなる調査チームを作り、各内容について調査を実施します。譲渡企業も、調査チームの要請に応じて資料を提出したり、従業員への聞き取りを許可したりなど積極的に協力しましょう。

デューディリジェンスの実施後は、調査チームが報告書をまとめて譲受企業に提出します。譲渡企業はデューディリジェンスの報告書を確認して、M&Aについての判断を行う流れです。

 

3-4.条件交渉

条件交渉では、基本合意書やデューディリジェンスの内容をもとに、最終契約へと向けたM&A条件の交渉を行います。

譲渡企業は譲渡価格や事業の継続、取引先との契約関係継続、役員・従業員の処遇などについて交渉することになるでしょう。

一方で譲受企業は、デューディリジェンスの報告書を踏まえて、譲受価格やM&Aの方法などを交渉します。デューディリジェンスによって譲受の不安・リスク材料が判明した場合には、譲渡企業に説明を求めたり、買収価格の修正を行ったりすることもあります。

条件交渉は最終契約前の交渉であるため、譲渡企業・譲受企業の双方が納得できるまで行うことが大切です。条件交渉の時点であっても交渉次第では破談となる可能性はあるものの、最終条件の合意ができれば最終契約へと進みます。

 

4.M&Aの最終契約フェーズの流れ

M&Aの最終契約フェーズは、最終契約の締結からクロージング、事後処理までを行う内容です。

最終契約とクロージングの内容、事後処理で行わなければならないことを解説します。

 

4-1.最終契約の締結

条件交渉によってM&A条件がすべてまとまった後は、最終契約書を作成して最終契約を締結します。

最終契約書とは、M&Aの最終的な合意事項について記載した契約書です。特定の項目を除いて法的拘束力を持たない基本合意書とは異なり、最終契約書の契約内容には法的拘束力が発生します。

最終契約書には、譲渡企業が自社の状況などに間違いがないことを保証する「表明保証」や、譲渡日までの義務を盛り込む「誓約事項」なども記載しなければなりません。

最終契約書は作成が難しく、かつ重要性が最も高い書類であるため、専門家の協力を仰ぎながら作成することがおすすめです。

 

4-2.クロージング

クロージングとは、最終契約書の内容に沿ってM&A取引を実行し、M&A対象の会社・事業の権利を譲渡企業から譲受企業へと移転することです。

クロージングがどのように行われるかは、M&Aのスキームによって違いがあります。例として、株式譲渡であれば売り手側から買い手側へと株券の引き渡しを行い、買い手側からは売り手側に現金など対価の支払いを行うことになるでしょう。

実際のクロージングでは行政手続きや書類の交付などが発生して、実行に期間がかかります。クロージングをスムーズに進めるためには、クロージングの準備である「プレクロージング」を進めることが重要です。

プレクロージングでは、クロージングのチェックリスト作成・確認や必要書類の用意を行い、クロージング時には単純な手続きのみで済むようにします。

 

4-3.事後処理

クロージング後は、M&Aの事後処理として「PMI」を行います。PMIとは、譲受企業がM&A後に行う自社の統合作業のことです。

クロージング直後の譲受企業は、自社に新しい会社・事業や経営資源を迎え入れたばかりであり、会社全体がまとまっていない状態です。何も対策を取らずにいると、企業文化の違いによる内部対立や従業員の離職、業務上の重大なミスなど多くの問題が発生する可能性があるでしょう。

譲受企業が抱えるさまざまなリスクを対策し、企業を統合するために行う取り組みがPMIです。PMIによって企業の経営面・事業面・意識面について統合を行い、M&Aで得られる効果の最大化を図ることができます。

また、譲受企業のPMIを成功させるためには、譲渡企業側の協力も必要です。譲渡企業の経営者は、従業員への説明を丁寧に行ってM&Aの理解を求めたり、傘下企業になる場合は譲受企業との積極的な信頼関係構築をしたりなどを行いましょう。

 

5.M&Aを成功させるためには?

M&Aは譲渡企業・譲受企業の2社が絡む規模の大きい取引であり、成功するかどうかが企業経営を左右する可能性があります。

M&Aを成功させるためには、以下で紹介する4つのポイントに注意してM&Aの各フェーズを進めることが重要です。

 

5-1.M&Aしやすい状況を整えておく

M&Aの計画を進めるためにはさまざまな準備が必要です。下記のような準備を行い、M&Aしやすい状況を整えましょう。

・自社の情報収集と分析

自社の経営状況・財務状況・事業内容などについて情報収集を行い、課題を洗い出します。自社の情報収集と分析は、M&Aの目的を決める上で欠かせないプロセスです。

・M&A条件の検討と優先順位の決定

M&Aで譲渡・譲受したい内容や想定金額、M&A先にしたい相手企業の条件を検討しましょう。条件には優先順位を付けて、M&A先の選定や条件交渉をスムーズに進められるようにします。

準備した内容は書類や資料にまとめると、M&Aの各フェーズで活用しやすくなります。

 

5-2.自社の価値を把握しておく

M&Aで会社や事業を売却する譲渡企業は、企業価値評価を算定して自社の価値を把握しておくことが大切です。

企業価値評価とは、対象企業にどの程度の市場価値があるかを評価する方法です。企業価値評価は、一般的に譲受企業が譲渡企業の価値を算定するために行うものの、譲渡企業自身も自社の価値を把握するために行ったほうがよいでしょう。

企業価値評価の算定方法には、主に下記の3種類があります。

コストアプローチ 対象企業の時価純資産に着目する算定方法
マーケットアプローチ 類似する上場企業と対象企業を比較して、相対的な価値を算定する方法
インカムアプローチ 対象企業の将来的な収益性に着目する算定方法

どの算定方法を利用するかによって、算定される企業価値評価の額は異なります。なるべく正確に算定できるよう、専門家に相談することがおすすめです。

 

5-3.M&Aの目的をきちんと決める

M&Aを進める流れでは最初にM&Aの目的を決める必要があり、以降の手順はすべてM&Aの目的を達成するために行います。M&Aの目的を達成できたときがM&Aの成功であるため、M&Aの目的をきちんと定めましょう。

また、M&Aは譲渡企業・譲受企業の双方にリスクがあります。譲渡企業は人材・技術の流出や敵対的買収、譲受企業にとっては不要な資産の承継や譲受後の問題発生などが主なリスクです。

M&Aの目的を決めておくと、M&Aの諸条件について明確な線引きができるようになります。リスクについても許容できる範囲を決定して、目的を見失わないようにM&Aを進めましょう。

 

5-4.信頼できるアドバイザーを見つける

M&Aを成功させるためには、M&Aの相談先として信頼できるアドバイザーを見つけることが大切です。

M&Aは事前準備からマッチング・交渉・最終契約まで、さまざまな調査や交渉、複雑な書類作成を行います。独力でM&Aを進めようとしても、各フェーズの進行がスムーズにできなかったり、交渉が不利に進んだりしてM&Aが失敗する可能性が高くなるでしょう。

信頼できるアドバイザーに相談すると、M&Aの各フェーズで専門家のサポートを受けられます。M&Aに必要な資料・書類作成や交渉についてもアドバイスを得られるため、成功の可能性を高められる点がメリットです。

 

まとめ

M&Aの成功は、計画的な準備と各フェーズでの適切な対応が大切です。準備フェーズでは目的の明確化と情報収集、マッチングフェーズでは慎重な相手選定を意識して行いましょう。また、交渉フェーズや最終契約フェーズでは双方の合意を得ながら漏れのないように事後処理を行うことが重要です。

M&Aを成功させるためには信頼できるアドバイザーを見つけましょう。M&Aアドバイザーに相談する他、税理士や弁護士など専門的な知識を持った人に相談すると、M&Aをスムーズに進められます。

監修者情報

杉田 透(すぎた とおる)

税理士法人スマッシュ経営

杉田 透(すぎた とおる)

資格:税理士

経歴

1959年
愛知県豊田市生まれ
1980年
名古屋国税局採用
2010年
法人税担当統括官
2020年
名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 知立本社入社
所属税理士となる

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