税務情報

2024.07.01

税務調査対象になりやすい法人・個人事業主の特徴|対象になる確率も

税務調査は、所得税や法人税の申告内容に誤りがないかを確認するために税務署が行う調査です。税務調査の対象になった場合、調査官の質問に答え、求められた帳簿や書類を提示する義務があります。

当記事では、税務調査の対象に選ばれやすい法人・個人事業主の特徴や、税務調査が入らないようにする対策方法を解説します。税に関する申告は複雑な場合もありますが、税理士の力を借りることも検討しながら正しく対応しましょう。

 

1.税務調査はなぜ実施される?

そもそも税務調査とは、所得税や法人税の税務申告内容に誤りがないかを確認するために行われる、税務署や国税局による調査のことです。

税務署を管轄している国税庁は「内国税の適正・公平な賦課と徴収」を使命としています。納税額の不正計算や脱税が行われていないかを調査することが税務調査の目的です。

税務調査によって申告内容の誤りが認められた場合、もしくは申告の義務がありながら無申告であったと判明した場合は、修正申告(期限後申告)の指導などが行われます。

 

1-1.税務調査の種類

税務調査は大きく分けて「任意調査」と「強制調査」の2種類があります。

・任意調査

任意調査とは、申告内容について税務署(国税局)職員が確認する調査です。税務調査の多くは任意調査で行われます。

任意調査は一般的に、電話で事前通知がされた後、管轄の税務署職員がやってきて調査を行います。調査期間は企業の規模や確認する内容によって異なるものの、問題がなければ1~2日程度で済むことが多いでしょう。

「任意」という名称が付いているものの、任意調査の対象となった事業者には調査に応じる義務(受忍義務)があります。任意調査を拒否したり、帳簿書類の提示を求められて正当な理由なく拒んだりすると、法律で定められた罰則の対象となる可能性があるため注意してください。

・強制調査

強制調査とは、国税局査察部が国税通則法にもとづいて実施する調査です。刑事事件での立件を視野に入れている調査であり、査察調査と呼ばれることもあります。

強制調査は、裁判所の令状を取った上で実施されるため、高い強制力を持っている点が特徴です。調査の事前連絡がされることはなく、強制調査の対象となった場合は調査を拒否できません。調査は臨検・捜索差押・押収が行われ、納税者への質問顛末書も作成されます。

参考:e-GOV法令検索「昭和三十七年法律第六十六号国税通則法」

 

2.税務調査の対象になりやすい法人の特徴

税務調査はすべての法人を対象に実施されるわけではありません。法人の中でも、いくつかの特徴に該当するケースは税務調査の対象になりやすい傾向があります。

税務調査の対象になりやすい法人の特徴を解説します。

 

2-1.事業規模が大きい

事業規模が大きい法人は、税務調査の対象に選ばれやすいと言われています。

一般的に、事業規模が大きい法人のほうが納税額も高くなります。納税額が高くなると申告内容にミスがあった場合に納税額への影響が大きくなるため、税務署に注目されるようになって税務調査の対象に選ばれやすいという考え方です。

ただし、あくまでも事業規模が大きいほうが「選ばれやすい」ということであり、事業規模が小さい法人は税務調査の対象に選ばれないわけではありません。

事業規模が小さい法人であっても、他に目立つ特徴がある場合には税務調査の対象に選ばれる可能性があります。

 

2-2.利益や売上に大きな変動がある

利益や売上に大きな変動がある法人は、税務調査の対象になりやすい傾向があります。

法人の売上が急増した場合、基本的に納税額も増えるので、税務署は急増した売上と納税額を照らし合わせて、不審な点がないかを検証を行います。

また、納税額は売上額ではなく利益をもとに計算する関係上、急増した売上に対して利益の増え方が少ない場合は納税額が少なくなり、不審に思われてしまうこともあります。実際には利益を圧縮する経費や損金が発生していても、所得隠しを疑われて税務調査が行われる可能性がある点に注意してください。

 

2-3.税務調査が入りやすい業種である

法人の業種によっても税務調査の入りやすさは異なります。業界が好況な業種であれば、売上高が上がることで申告すべき納税額も増えるため、税務調査の対象になりやすい傾向です。

また、国税庁は不正発見割合の高い業種についてまとめていて、飲食業・廃棄物処理業・中古品小売業・土木工事業・医療保健業などは不正発見割合が高いとされています。

出典:国税庁「令和4事務年度 法人税等の調査事績の概要」

不正発見割合の高い業種は税務調査の必要性が高いと判断されるので、税務調査の対象に選ばれやすくなります。

 

2-4.過去の税務調査で指摘を受けたことがある

過去に実施された税務調査で、税務署職員から申告漏れなどの指摘を受けたことがあるかどうかも、税務調査の対象に選ばれやすくなる要因の1つです。

例年問題なく納税の申告をしている法人と比べて、過去に申告ミスがあった法人は「申告内容に問題が発生する可能性がある」と税務署に判断されやすくなります。過去の指摘事項を守っているかどうかを税務署が確認しなければならない点も、税務調査の対象となりやすい理由です。

税務調査で指摘を受けた頻度が多いほど、税務調査の対象に選ばれやすくなると考えられます。なるべく税務調査で指摘を受けないことはもちろん、指摘を受けた場合には是正に努めることが大切です。

 

2-5.申告内容に不審な点がある

申告内容に不審な点があると、税務署が原因の究明をするために税務調査を実施する可能性が高まります。

特に下記のような申告内容となっている場合、税務署に不審に思われやすいので注意しましょう。

  • 売上に占める経費の割合が高い
  • 多額な損金の算入がある
  • 同業他社と比較して利益率が低い
  • 貸借対照表に異常な値の変動がある
    など

正常な計算をしていても、税務署が見たときに不審な点が存在する申告内容となるケースもあります。税務調査が行われる可能性に備えて、入力した数値の理由や損金などが発生した背景を説明する準備をしておきましょう。

 

3.税務調査の対象となりやすい個人事業主の特徴

税務調査の対象になりやすい個人事業主の特徴には、売上や利益が急激に上がっていたり、過去の税務調査で指摘があったりするなど、法人と共通する特徴もあります。

個人事業主の場合は他にも、下記の特徴が税務調査の入りやすさに影響します。

 

3-1.申告をしていない

そもそも所得税の申告をしていない個人事業主の方は、税務調査の対象になる可能性が高くなります。売上・利益が出ているにもかかわらず申告をしないのは脱税であり、税務署は無申告の事業者への税務調査に特に力を入れているためです。

「確定申告をしていなければ所得がバレない」と思っていても、取引先への税務調査が行われたり、銀行口座の入出金状況が照会されたりすることで無申告が発覚します。売上が高くなるほど取引先との関係や口座への入出金が大きくなり、税務調査の対象となる確率は高くなるでしょう。

 

3-2.1,000万円近く売上がある

1,000万円近く売上がある個人事業主の方も、税務調査されやすくなります。税務署が1,000万円近くの売上に注目し、消費税逃れをしていないかの調査を行っているためです。

売上が1,000万円を超える場合、個人事業主であっても自動的に課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。一方で売上が毎年1,000万円以下の場合は、個人事業主は非課税事業者となって消費税の納税義務は発生しません。

売上が毎年900万円付近である個人事業主は、売上が1,000万円以上にならないよう過少申告をしているのではないかと疑われ、税務調査される可能性が高くなります。

 

3-3.経費の申告が多い

確定申告では、事業で発生したさまざまな支出を経費に計上できます。

しかし、経費の申告が多いと税務調査の対象となりやすい点に注意してください。事業に関係ない出費まで経費に計上していると、税務調査が行われたときに修正申告の指導を受けることになります。

経費として認められない代表的な支出が「プライベートでの出費」です。例を挙げると友人と食事をしたときの飲食費や、事業と関係のない物品の購入費などは、経費に計上できません。

個人事業主の税務調査では、プライベート用と事業用との線引きが難しい項目の経費計上について調査が行われる傾向があります。

 

3-4.多額な現金取引をしている

多額な現金取引をしていることも、税務調査の対象になりやすい方の特徴です。

現金取引とは、商品・サービスの対価を現金で受け取る取引のことです。現金取引が多い業種としては飲食店・小売店・美容院などが挙げられます。

現金取引は、銀行口座を介した取引と比べて売上の記録が残りにくく、脱税や帳簿操作を行っても証拠が残りにくいと考えられます。現金取引は売上を伝票やレジで記録するので、帳簿への記入ミスが発生しやすい点も税務署に目を付けられやすい理由です。

現金取引への疑いを理由として税務調査が実施された場合は、取引を証明できる書類の提示が求められます。多額な現金取引を行っている個人事業主の方は、請求書・領収書・伝票などを捨てずに保管しておくことが大切です。

 

3-5.新しいビジネスを行っている

国税庁は近年誕生・拡大した新しいビジネスについて情報収集をするために、該当ビジネスへの税務調査を積極的に実施しています。

2022年度の調査では、インターネットを介したシェアリングビジネスや、暗号資産取引を行う個人に対して積極的な調査が実施されました。どちらのビジネスも前年度より調査件数が増加しており、国税庁が新しいビジネスに注目していることが分かります。

出典:国税庁「令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」

ネット通販やデジタルコンテンツなども、国税庁が積極的な調査を行っている分野です。新しいビジネスを行っている方は、税務調査を受ける可能性が高いと考えたほうがよいでしょう。

 

3-6.顧問税理士がついていない

顧問税理士がついていない個人事業主の方は、税務調査の対象になる可能性が高いと言えます。

税理士とは、税金の相談に対応できる税務の専門家です。確定申告書の作成・提出も依頼できるので、顧問税理士がついていれば正確な税務関係書類を作成できます。

反対に、顧問税理士がついていない場合は税務関係書類を自分で作成する必要があります。個人が作成した書類には申告内容の不備や記入ミスが発生しやすいことが、税務調査の対象になりやすい理由です。

また、税務調査の対象となった場合にも、顧問税理士がついていれば税務調査への対応や立ち会いを依頼できます。税務調査に対する心強い味方が作れる点も、顧問税理士のメリットです。

 

4.税務調査の対象になる確率は?

税務調査の対象になる確率は、税務調査先の選定に使われるKSKシステムの結果や、税務署の判断によって変わるため一概には言えません。

2021年度・2022年度における確定申告の件数と、実施された税務調査の件数は下記の通りとなっています。なお、個人事業主の申告件数については申告納税額がある方のみです。

  2021年度 2022年度
法人 個人事業主 法人 個人事業主
申告件数 3,065,000件 6,570,000件 3,128,000件 6,530,000件
税務調査(実地調査)の件数 41,000件 31,000件 62,000件 46,000件
税務調査の割合 約1.3% 約0.5% 約2% 約0.7%

出典:国税庁「令和4事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要」

出典:国税庁「令和4事務年度 法人税等の調査事績の概要」

出典:国税庁「令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」

出典:国税庁「令和4年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について (報道発表資料)」

出典:国税庁「令和3年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について (報道発表資料)」

統計的には法人で約1~2%、個人事業主であれば約0.5%であると言えます。

ただし、紹介した「税務調査の対象になりやすい特徴」に当てはまっている場合は、法人・個人事業主ともに確率が上がると考えてよいでしょう。

 

5.税務調査の対象にならないための対策は?

税務調査の対象にならないためには、法人税・所得税の申告準備をする段階から税務調査対策を行うことが大切です。

税務調査の対象にならないための4つの対策方法を挙げて、それぞれのポイントも解説します。

 

5-1.日々の記帳をきちんと行う

帳簿の正しい付け方を覚えておくと、申告内容について税務署に疑義を持たれなくなります。

帳簿を付けるときに注意したいポイントが、「現金主義」と「発生主義」による違いです。

現金主義は、現金のやり取りや預金の入出金の事実があったタイミングで、初めて取引があったとして記帳をする方法です。もう1つの発生主義は、収入や支出の発生が確定した時点で記帳をする方法を指します。

確定申告に使用する帳簿は、法人・個人事業主のどちらの場合でも原則として発生主義で処理することが求められます。記帳を付けるときは、発生主義での処理を意識して、収入や支出が発生した日に計上しましょう。

記帳によるミスを防ぐには、会計ソフトの導入や、顧問税理士への依頼をするという方法もあります。

 

5-2.経費の申告を正しく行う

経費は法人・個人事業主ともに節税につながる勘定科目であり、税務署も申告内容の中で注視しています。経費を大雑把に計上すると税務調査の対象となりやすいため、経費の申告を正しく行いましょう。

前提として、経費として認められる主な支出と、認められない支出は下記の通りです。

経費として認められる支出 経費として認められない支出
  • 人件費
  • 通信費
  • 水道光熱費
  • 福利厚生費
  • 接待交際費
  • 旅費交通費
  • 広告宣伝費
  • 研究開発費
  • 外注費
  • 租税公課 など
  • プライベートの支出
  • 所得税
  • 住民税
  • 相続税
  • 贈与税

法人の場合は、事業用の支出とプライベートの支出を分けやすく、厳密に行えば正しい経費を計上できます。

一方で個人事業主、特に自宅で仕事をしている方の場合は、事業用の支出とプライベートの支出を明確に分けられないケースが少なくありません。

明確な分類が難しいケースでは、それぞれの支出を割合で分ける「家事按分」を行って、事業用の分のみを経費として計上します。家事按分で分ける割合は自由に決められるわけではなく、割合の根拠(業務時間や仕事場の面積など)にもとづいて決める必要があります。

 

5-3.税理士に依頼する

税理士に依頼すると、確定申告で提出する税務関係書類の作成・提出代行を任せられます。税理士は税務についての専門知識を持っているため、不備のない確定申告が行えて、税務調査の対象となる可能性を抑えられます。

また、顧問税理士を付けておけば、税務調査が入ったときに事前相談や立ち会いをお願いできる点もメリットです。税務署職員から質問をされたときや、申告内容について指摘されたときにアドバイスを受けられて、税務調査終了までサポートしてもらえます。

万が一、修正申告の指導が行われたときにも、修正申告書作成を税理士に依頼できます。確定申告を自分自身で行っている方や、税務調査の事前通知がきた方は、税理士に一度相談してみるとよいでしょう。

 

5-4.書面添付制度を活用する

税理士に税務関係書類の作成・提出代行を依頼した場合は、書面添付制度を活用することで税務調査の対象となる可能性をさらに減らせます。

書面添付制度は、税理士が税理士法第33条の2にもとづく書面を作成して申告書に添付することで、申告書の信頼性を高められる制度です。税理士が申告作業において、どのような資料にもとづき、どのように申告書を作成したかなどの情報を書面にまとめています。

書面添付制度を活用した場合は、税務調査の対象に選ばれたとしても、意見聴取の機会が与えられます。意見聴取は税務署が申告書の気になるポイントについて税理士に尋ねる内容であり、依頼した納税者本人の立ち会いは不要です。

意見聴取で申告書の誤りや不審点が解消されれば、税務調査には移行しません。可能な限り税務調査を受けないためには、税理士に依頼するとともに、書面添付制度も活用しましょう。

 

まとめ

税務調査は、税務申告内容が正しいかどうかを確認するために、税務署(国税局)が行う調査です。

特に事業規模が大きい法人や利益・売上に大きな変動がある法人、過去に指摘を受けた法人などは、調査対象となりやすい傾向があります。また個人事業主も、申告をしていない場合や経費の申告が多い場合、調査対象になりやすいでしょう。

税務調査の対象になるのをできるだけ避けるには、日々の記帳をきちんと行い、経費の申告を正確に行うよう心がける必要があります。また、顧問税理士を作っておくと、申告時に書類の作成を依頼できるだけでなく、税務調査の対象となったときも対応について相談できるのでおすすめです。

監修者情報

杉田 透(すぎた とおる)

税理士法人スマッシュ経営

杉田 透(すぎた とおる)

資格:税理士

経歴

1959年
愛知県豊田市生まれ
1980年
名古屋国税局採用
2010年
法人税担当統括官
2020年
名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 知立本社入社
所属税理士となる

この記事は専門家による監修を受けて作成されていますが、内容の誤りや不正確性によって、読者が何らかの損害を被る場合でも、当法人はその責任を一切負わないものとします。

同じカテゴリの記事

COMPANY
愛知県内の3拠点、知立・岡崎・名古屋から全国に向けて、税務・会計を徹底サポート!