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2024.05.01

事業承継の相談先を8つ紹介!相談先を探すときの注意点も徹底解説

特に中小企業の経営者にとって、事業承継は会社の未来を左右する重要なプロセスです。承継の準備には長い期間が必要で、かつ適切な承継先を見極める必要があります。直面するであろう多様な課題や疑問に応えるためには、信頼できる相談先を見つけることが非常に重要です。しかし、誰に相談すればよいのか悩む経営者の方も多いでしょう。

この記事では、事業承継の現状とともに、信頼できる相談先の例や選び方について詳しく解説します。相談先の特徴や注意点を参考に、自社にとって最適なパートナーを見つけてください。

 

1. 中小企業の事業承継の現状

中小企業の事業承継については、さまざまな公的機関が調査を行っています。

東京商工会議所は2023年、東京23区内事業者を対象に事業承継についてのアンケートを行いました。同アンケートで、後継者の決定状況について「後継者を決めていないが、事業は継続したい」と回答した層は約3割です。

後継者を決定済みの企業が占める割合は、代表者の年齢が高いほど増えています。

しかし、代表者の年齢が60代以上の場合であっても、18.4%は「後継者を決めていないが、事業は継続したい」と回答していました。70代以上の場合でも同回答は12.5%を占めており、事業承継を考えながらも実現が難しい企業は多いことが分かります。

また、2020年以降に事業承継を行った企業のうち、親族への承継は52.9%であり、従業員への承継は30%、社外からの登用は9.4%でした。従業員および社外登用の割合は年々高くなっている傾向にあります。

出典:東京商工会議所「事業承継に関する実態アンケート報告書」

一方で、経済産業省がまとめたデータによると、2020年・2022年は高齢の経営者の割合が低下しており、事業承継が一定程度進んでいる可能性が示されています。

さらに、事業を承継した経営者の年齢が若い企業ほど、事業再構築に取り組む割合が高くなり、売上向上にもつながります。承継後の事業再構築が売上高の増加に「大きく寄与した」「ある程度寄与した」と回答した企業は76.9%にのぼりました。

経済産業省は、M&Aによる事業承継を行う企業が年々増加していることも示しています。

M&Aでは、組織・文化の融合といった経営統合(PMI)に早期に取り組むほど、期待できる成果が高くなる点が特徴です。PMIを意識した譲受企業の選定や、自社の組織管理を行う必要があるでしょう。

出典:経済産業省「2023年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要」

中小企業は事業承継を早期に開始して、後継者が従業員の信任を得た状態で事業を任せることにより、企業の成長につながる可能性を高められます。

 

1-1. 事業承継にあたってよくある課題

企業が事業承継を実施するにあたっては、いくつかの課題もあります。

中小企業の事業承継でよくある課題を、3つのパターンに分けて解説します。

・後継者を決めている場合

後継者を決めている場合は「後継者への株式の移転」に課題を感じる経営者が多い傾向があります。株式の移転には贈与税や相続税もしくは所得税などの負担が発生する場合があるため、活用できる各種税制を理解していなければ事業承継の障害になり得ます。

「後継者教育」や「従業員との関係構築」なども、後継者を決めている場合に解決が必要な課題です。

・後継者を決めていない場合

後継者を決めていない場合は「後継者の探索・確保」が大きな課題です。後継者を探す際は資質の高い人材を見つけることはもちろん、本人の同意や事業関係者との対話も必要であり、課題解決には多くの時間がかかります。

また後継者を決めず、自分の代で廃業する予定の場合は、「借入金・債務保証の引継ぎ」が課題です。

・M&Aで会社を譲渡する場合

M&Aで会社を譲渡する場合は「借入金・債務保証の引継ぎ」が課題となります。自社の借入金が多額であると、M&Aでの条件が不利になると考える方が多いためでしょう。

他にも「後継者の探索・確保」「取引先との関係維持」も課題に感じる方が多い項目です。

出典:東京商工会議所「事業承継に関する実態アンケート報告書」

出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン」

事業承継で課題を感じている方は、第三者への相談が必要です。

 

2. 事業承継についての相談先8つ|特徴・サポート内容を解説

中小企業庁が公表する2017年版中小企業白書によると、2017年時点における事業承継の主な相談相手の内訳は、下記の通りでした。

相談先 後継者を決定済の企業の割合(%) 後継者を決定していない企業の割合(%)
顧問の公認会計士・税理士 43.2 24.4
取引金融機関 24.2 19.8
経営コンサルタント 10.4 6.7
親族、友人・知人 10.1 8.0
他社の経営者 5.4 4.7
親族以外の役員・従業員 4.5 4.8
取引先の経営者 4.2 5.2
弁護士 1.9 1.8
商工会・商工会議所 2.3 1.6
よろず支援拠点 0.4 0.3

出典:中小企業庁「2017年版中小企業白書」

以下では、事業承継の主な相談先8つと、それぞれの特徴を解説します。

 

2-1. 顧問の会計士・税理士

企業と顧問契約を結んでいる会計士・税理士は、多くの経営者が最初に思い浮かべる事業承継の相談先でしょう。2017年版中小企業白書においても、顧問の会計士・税理士はトップを占める相談先です。

特徴
  • 企業の業績や財務状況を詳しく把握していて、的確なサポートが期待できる。
  • 会社法の知識を活用して事業承継の手続きを進められる。
  • 事業承継に必要な資金調達や、税金面についてのアドバイス・サポートが受けられる。
サポート内容
  • 企業価値の算定にもとづく、事業承継計画の策定サポート
  • 事業承継に活用できる各種制度の提案
  • 税務デューデリジェンスの実施
    など

顧問の会計士・税理士に相談すると、それぞれの士業が持つ専門知識を活用してくれる点はもちろん、企業を深く知る顧問の立場からのサポートが得られます。

 

2-2. 取引金融機関

都市銀行・地方銀行や信用金庫・信用組合といった取引金融機関は、企業の事業承継について相談に乗ってくれます。

特徴
  • 企業の経営状況を把握していて、企業の実態に沿ったサポートや相談対応を受けられる。
  • 多数の企業と取引があり、独自のネットワークを活用したサポートが期待できる。
  • 相談料や着手金がかからないケースがある。
サポート内容
  • 自社株式の算定相談
  • 企業経営についての相談
  • M&Aを伴う事業承継における、譲受企業の紹介
    など

取引金融機関は、顧客である企業の経営継続に強い関心を持ってくれるため、事業承継の相談先として適しています。ただし、M&Aを伴う事業承継の相談を行う場合、承継先は金融機関の取引先から選ばれるケースが多い点に注意してください。

 

2-3. 事業承継コンサルティング会社

事業承継コンサルティング会社は、企業への事業承継支援を専門的に行う会社です。弁護士・税理士・公認会計士などの士業や、事業承継士といった民間資格を取得した事業承継コンサルタントが、事業承継のサポートを行います。

特徴
  • 事業承継に関する専門知識を有していて、専門的なサポートやアドバイスを受けられる。
  • 事業承継の相談から計画立案、実施、クロージングまでを一貫してサポートしてもらえる。
  • 企業が抱える課題の洗い出しや、解決のための提案をしてくれる。
サポート内容
  • 事業承継計画や戦略の策定
  • 後継者の育成や承継後のサポート
  • M&Aを伴う事業承継のサポート
    など

なお、事業承継コンサルティング会社によっては請け負う業務範囲を限定しているケースもあります。相談したい場合は、サポートを受けられる業務範囲を確認しましょう。

 

2-4. 親族・友人・知人・他社の経営者

2017年版中小企業白書では、事業承継に関する相談を親族・友人・知人・他社の経営者にしている方も多いことが読み取れます。

いずれも事業承継についての専門知識を持っているわけではないものの、気軽に相談しやすい点により、相談先として選ばれるケースが多いと考えられます。

特徴
  • 親族は関係性が近いため話しやすく、事業の後継者候補にもなり得る。
  • 友人や知人は、第三者的な視点から事業承継や後継者についての相談に乗ってもらえる。
  • 他社の経営者に事業承継の経験がある場合は、事業承継の体験談を聞いたり、アドバイスを求めたりができる。

ただし、親族・友人・知人・他社の経営者は事業承継の専門家ではないため、適切なアドバイスが得られるとは限らない点に注意してください。事業承継の明確なサポートも得られないため、実際に事業承継を進める際は改めて別の相談先を探す必要があります。

 

2-5. 商工会議所

地域の中小企業向けに経営関連のサポートを提供する商工会議所では、事業承継についての相談対応や支援も受けられます。

特徴
  • 地域企業の後継者問題に強い関心を持っていて、企業の事業承継相談にしっかり対応してくれる。
  • 地域に強いネットワークを保有し、強力なバックアップを得られる可能性がある。
  • 事業承継診断を無料で受けられる。
サポート内容
  • 事業承継診断の実施
  • 事業承継をサポートしてくれる専門機関の紹介
  • 事業承継の準備やクロージング後のサポート
    など

商工会議所で受けられる事業承継診断とは、企業が事業承継で抱えている課題や、事業承継に関する準備の進み具合などを確認できる診断ツールです。

なお、事業承継に関する実務などのサポートは専門機関が行います。商工会議所が紹介してくれる専門機関によっては、自社の希望に合わないケースもある点に注意してください。

 

2-6. 弁護士

弁護士は法律の専門家であり、企業の法務について弁護士に相談する経営者の方は多いでしょう。さまざまな法律が絡む事業承継の相談にも、弁護士は対応しています。

特徴
  • 法律の専門知識を持ち、法律関係を中心に事業承継をサポートできる。
  • 経営者に代わり、金融機関との交渉などを依頼できる。
  • 事業承継時に発生し得る相続トラブルに対処してもらえる。
サポート内容
  • 事業承継計画の策定と、承継時の法的なサポート
  • 各種契約書の作成と確認
  • 相続トラブルの防止や解決
    など

一口に弁護士と言ってもそれぞれに専門分野があり、中には事業承継やM&Aに詳しくない弁護士も存在します。弁護士に事業承継を相談する際は専門分野を確認して、事業承継に強い弁護士を選ぶことが大切です。

 

2-7. 司法書士

司法書士は登記・供託などの専門家であり、法務局や裁判所などに提出する書類の作成も行える高度な法律知識を持っています。企業経営で司法書士との付き合いがある経営者の方は、事業承継を司法書士に相談するケースもあるでしょう。

特徴
  • 事業承継やM&Aにかかわる登記変更、供託などの相談ができる。
  • 税理士や弁護士といった他士業とのネットワークを持ち、必要に応じて専門家を紹介してもらえる。
  • 同じ法律系の士業である弁護士に依頼するよりも、費用を安く抑えやすい。
サポート内容
  • 役員変更や組織再編などに伴う会社登記の変更手続き
  • 事業承継にかかわる法律の説明や、活用できる制度の紹介
  • 事業承継に活用できる遺言書の作成
    など

司法書士は事業承継の手続き全般を行えるわけではないものの、事業承継を進める上で発生するいくつかの手続きをサポートしてもらえます。

ただし、事業承継時に発生する可能性がある相続トラブルは、司法書士では対応できない点に注意してください。

 

2-8. 事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、「事業承継ネットワーク」と「事業引継ぎ支援センター」の統合によって2021年に新設された組織です。親族内での事業承継と、第三者とのM&Aの支援をワンストップで行う体制を整備しています。

特徴
  • 親族内承継と第三者承継のいずれであってもサポートを受けられる。
  • 日本全国に拠点が設置されていて、相談しやすい体制が整っている。
  • よろず支援拠点や登録民間支援機関といった他組織との連携を行っており、柔軟な対応が期待できる。
サポート内容
  • 事業承継の相談対応や、事業承継に関する課題の抽出
  • 事業承継計画の策定
  • M&Aを伴う事業承継におけるマッチング支援
    など

事業承継・引継ぎ支援センターは公的相談窓口であり、経営者が事業承継を安心して進められるサポートを提供しています。

 

3. 事業承継の相談先を探すときの注意点

事業承継の相談先はいくつかの選択肢があり、同じ種類の相談先であっても得られるサポート内容などには違いがあります。

事業承継の相談先を探すときは、以下で紹介する5つの点に注意するとよいでしょう。

 

3-1. 事業承継やM&Aの実績が豊富か

最初に、相談先に事業承継やM&Aの実績が豊富にあるかを確認しましょう。

事業承継のサポートを提供していると謳う会社や組織であっても、事業承継やM&Aの実績が多くはないことがある点に注意してください。事業承継にはさまざまなパターンがあり、豊富な実績に裏付けられた知識がなければ円滑に進められないケースもあります。

特に譲渡や売却などのM&Aを伴う事業承継を検討している場合は、M&Aについての実績が重要です。M&Aを実施するには他社とのマッチングや交渉が必要であり、実績の豊富な会社は独自のネットワークを保有しています。

事業承継やM&Aの実績は、相談先の公式ホームページなどで確認できます。

 

3-2. 専門家や金融・公的機関と連携しているか

事業承継を進める際は、税務・法務について問題が発生したり、資金調達などの点で課題を抱えたりするケースがあります。1つの相談先だけでは解決ができない可能性もあるため、相談先が専門家や金融・公的機関と連携しているかを確認しましょう。

相談先が連携していたほうがいい相手は、税理士・弁護士・行政書士といった士業の専門家や、銀行・信用金庫などの金融機関です。多分野での連携ができる相談先を選ぶと、事業承継の手続きで問題が発生したときにもスムーズな解決が期待できます。

相談先がどのような専門家や金融・公的機関と連携しているかは、公式ホームページで確認できます。また、最初の問い合わせ時に連携状況を確認しておくと、専門家の力が必要になったときに迅速なサポートを受けられるでしょう。

 

3-3. 相談したい課題や自社の事業についての知識があるか

事業承継を進める上で相談したい課題や自社の事業について、相談先に十分な知識があるかどうかも重要です。

事業承継の課題は自社の置かれている状況によって異なり、解決するには課題についての専門知識が求められます。相談したい課題についての知識・経験が豊富な相談先であれば、適切な対策方法や施策を提案してくれるでしょう。

また、M&Aによる第三者の承継先を探している場合は、自社の事業や属する業界に詳しい相談先が求められます。相談先が自社の事業領域に精通しているほど、よりマッチした承継先の紹介が期待できます。

 

3-4. 支払いはいつ発生するか

事業承継の相談先を探す際は、相談先への支払いはいつ発生するかを必ず確認してください。

事業承継のサポートにかかる費用は相談先によって異なり、支払いが発生するタイミングにも違いがあります。相談だけで費用が発生するケースや、承継の成否を問わず費用を請求されるケースもあるため、どのような費用がいつ発生するかを確認しておきましょう。

発生する費用の種類や支払いのタイミングは、問い合わせの時点で確認できます。費用支払いを事前に知っておき、「無料で相談できる」「成約金額に応じた成功報酬制を取っている」など、経営者にとって有利な条件の相談先を選ぶことがおすすめです。

 

3-5. 担当者と相性が合うか

事業承継は相談からクロージングまでに長い期間がかかります。後継者への承継を行う場合であっても、経営者が事業承継を意識してから後継者の承諾を得るまでに3年以上かかる割合は、東京都の企業の場合4割を超えています。

出典:東京商工会議所「事業承継に関する実態アンケート報告書」

相談先の担当者とは、事業承継の相談を行ってから長期にわたってコミュニケーションを取り続けるため、担当者と相性が合うかを重視しましょう。

事業承継を進める過程では、企業を取り巻く事業が変化したり、承継についての新たな不安や悩みが発生したりする可能性もあります。事業承継で臨機応変なサポートを得るには、相性がよく相談しやすい担当者がいる相談先を選ぶことが大切です。

 

まとめ

事業を承継した経営者の年齢が若い企業ほど、事業再構築に積極的であり、その後の売り上げ向上につながった割合が高まっています。事業承継には3年以上を要するケースも多いため、早期に事業承継の相談相手を探し、承継を始めるのが大切です。

事業承継に際しては、顧問の会計士・税理士、取引金融機関、事業承継コンサルティング会社など複数の相談先が存在し、それぞれが異なるサポートを提供しています。相談先を選ぶ際には、実績の有無、専門家や機関との連携、課題への対応能力、費用の発生タイミング、担当者との相性など、いくつかのポイントを考慮する必要があります。事前に調べ、自社にとって最適なパートナーを探しましょう。

監修者情報

杉田 透(すぎた とおる)

税理士法人スマッシュ経営

杉田 透(すぎた とおる)

資格:税理士

経歴

1959年
愛知県豊田市生まれ
1980年
名古屋国税局採用
2010年
法人税担当統括官
2020年
名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 知立本社入社
所属税理士となる

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