税務情報
2023.09.29
顧問税理士は変更できる?変更の手順やタイミングを解説
顧問税理士への依頼料が高いと感じたときや、相性に疑問を感じたとき、専門的な業務の依頼が難しいと分かったときは、顧問税理士の変更を検討するタイミングかもしれません。顧問税理士は経営のパートナーであり、会社のニーズに応えてくれる人に依頼することで、経営をスムーズに進めることができるでしょう。
当記事では、顧問税理士の変更方法や変更のタイミング、注意点を解説します。顧問税理士の見直しを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1.顧問税理士の変更を検討するきっかけは?
事業を進める中で、顧問税理士との関係が変わることは少なくありません。報酬の問題や税理士の対応・相性に関する不満、さらには経営状態や経営方針の変化など、顧問税理士変更を考える場面はさまざまです。
まずは、顧問税理士の変更を検討するきっかけとして多いパターンを3つ紹介します。
1-1.報酬が業務(サービス)に見合っていない
税理士報酬に関する不満は、顧問税理士の変更を検討する一因となることが多い問題です。特に「顧問報酬が負担である」と感じるケースや、「報酬に対して適切なサービスを受けられていない」と感じるケースが多く見られます。このような疑問が生じる背景には、税理士との契約内容に対する双方の認識のズレがある場合が少なくありません。
顧問料は契約形態や事業の規模、依頼の業務内容によっても大きく変わります。例えば法人の場合、売上高が増加すると税理士の業務量や責任も増えるため、顧問料は高くなるのが一般的です。
契約の報酬が高いと感じる場合でも、税理士が自社の依頼分野に精通しているのであれば、その価格が妥当である可能性もあります。重要なのは、報酬とサービス内容のバランスをよく理解し、納得のいく関係を築くことです。
1-2.現在の顧問税理士に不満がある
顧問税理士に不満を感じる経営者は意外と少なくありません。以下は、顧問税理士への不満点として多く挙げられる問題です。
●不誠実な姿勢
- 会計資料を十分に確認していない
- 自計化の提案を反対される
- レスポンスが遅い
●仕事ぶり
- 会計税務の質問に答えない
- 連絡や訪問が少ない
- 積極的な提案がない
●時代の変化に疎い
- 新しいシステムの導入を拒否する
- デジタル関連の説明が不十分だと感じる
- 不安や危機感を共有しない
●人間関係の問題
- 言葉遣いや態度が横柄に見える
- 担当者が頻繁に変わる
- 服装や身だしなみが気になる
また、税務調査に対する対応の弱さや人としての相性の悪さなども、顧問税理士への不満となり得ます。
1-3.経営の状況が変わった
企業側の経営状態の変化や体制変更により、税理士に対するニーズも変わります。例えば経営状況が厳しくなった場合、税理士顧問料の出費は大きな負担です。ただ、現在の顧問税理士に不満がないのであれば、相手を変更するより契約内容の見直しのほうが適しているかもしれません。料金を下げてもらえる可能性もあるため、まずは相談するとよいでしょう。
また、税務には専門的な領域があり、税制改正や新しいビジネスへの対応、そして相続や事業承継等どの分野を得意とするかは税理士によっても異なります。通常の顧問業務に問題はなくとも、自社が新たに必要とする業務に既存税理士の得意分野が合致するとは限りません。金銭的に余裕があるのであれば、通常の顧問業務は現行のまま、スポット業務は専門性の高い税理士に依頼するといった分業制を取る方法もおすすめです。
2.顧問税理士を変更するのに適したタイミング
顧問税理士の変更を考える際、ただ「変えたい」と感じるだけで進めるのはリスクが伴います。顧問税理士の変更は、税務処理に支障が出ないよう、適切なタイミングをしっかりと考えて実行しなければなりません。
新しく依頼した税理士が業務を把握し万全の態勢で進めるには、事前の準備期間を十分に確保する必要があります。税理士を変更するのに適したタイミングは、主に2回です。
ここでは、税理士の変更に適した2つのタイミングとその理由について解説します。
2-1.法人税申告書の提出後
法人税申告書の提出後は、税理士を変える最適なタイミングとされています。税理士は月次業務を経て年度末に財務状況をまとめて決算書を作成し、最後に「法人税申告書」を作成するためです。法人税申告書が税務署に提出されると、その年度の主要な業務はほぼ完了します。
旧税理士との引き継ぎ業務が少なければ、新しい税理士との関係構築や次年度の計画立案に時間を割きやすくなるでしょう。また、新しい税理士が会社独自の取引関係や売上認識のタイミングなどを正確に把握する時間が確保でき、税務業務のミスを減少させる効果も期待できます。
2-2.修正申告が終わった後
税務調査で申告内容に誤りや漏れを指摘されることがあります。調査結果を受け入れ、修正申告書を提出するのであれば、修正申告業務が完了した後が税理士を変更するベストタイミングと言えます。
修正申告は、税務の誤りを修正するための重要な手続きです。税務調査時に税理士が代理人として動くには、「税務代理権限証書」が必要であり、手続きにかかる時間も考慮しなければなりません。申告書の提出を既存の税理士が円滑に処理した後、新しい税理士に変更することで、業務の引き継ぎや調整がスムーズに行えます。
3.顧問税理士を変更しないほうがよいタイミング
決算は1年間の企業業績をまとめる重要な手続きであり、税理士のサポートが不可欠です。正確な損益計算や税額の算出には、1年間の業務の内容をよく把握している税理士との連携が求められます。
決算の3か月前ともなると、既に資料の確認や申告書作成の準備が進行している段階です。このタイミングで税理士を変更すると、新しい税理士が期間内にすべての業務を理解しきれないといったリスクが生じ、決算に影響を及ぼす可能性が高まります。
一般的に税理士同士での引き継ぎは行われないため、慎重に判断しなければなりません。ただし、「現在の税理士業務や申告内容に不安がある」「体調不良などで申告対応が難しい」など、特別な理由がある場合は変更も考慮するとよいでしょう。
4.顧問税理士の変更手続きの進め方
顧問税理士の変更を検討する際、手続きの方法や流れが気になる方も多いでしょう。一見複雑そうなイメージもありますが、手続き自体はそこまで難しくはありません。
ここでは、税理士を変更するときの手順を、4つのステップに分けて紹介します。
4-1.契約内容を確認する
顧問税理士との契約を解除する前に、顧問契約書の確認が必須です。契約書には、契約期間や解除条件、違約金に関する情報が詳しく記載されています。顧問契約期間は事業年度の初めから決算日までの1年となるのが一般的ですが、数年以上の長期契約を結んでいるケースも珍しくありません。
また、契約が自動更新される内容や、特定の期間までに解約の意思を示さなければならない場合もあります。違約金が発生するケースや、書類の返却に時間がかかるケースもあるため、契約書の内容を十分に理解した上での行動がトラブルを避けるカギです。
契約書を紛失したり、取り交わした記憶がない条項があったりする場合は、税理士と丁寧にコミュニケーションを取りながら進めたほうがよいでしょう。
4-2.契約解除を伝える
顧問税理士との契約内容に従い、解除の期限までに契約解除の意思を伝えます。顧問税理士に契約解除を伝えるときには、理解を求める姿勢を示すだけでなく、心からの感謝の気持ちを伝えることが大切です。顧問契約解除に当たって資料の返却やデータの受け渡しをスムーズに行うためにも、丁寧なコミュニケーションを心がけましょう。
解約の理由は「やむを得ない事情」を伝えることで、揉めずにスムーズな進行が期待できます。例えば、「取引先の社長の推薦で新しい税理士に変更する」「出資元からの要請」など、外部からの要望として伝える方法が有効です。
何かトラブルが発生した場合の対策として、対面や電話でのやり取りに加えて書面やメールなどで記録を残しておきましょう。
4-3.書類を回収する
現在の顧問税理士を変更する際、重要な点として書類の確実な回収が挙げられます。これは、次の顧問税理士へのスムーズな引き継ぎや、税務調査対応のために欠かせない手続きです。特に注意して回収すべき書類は以下の通りとなります。
- 決算書(3期分以上)
- 総勘定元帳(3期分以上)
- 仕訳帳
- 試算表
- 年末調整関係書類
- 法定調書
- 消費税関連届出書
- 定款
- 登記簿謄本
上記の書類は基本的に社内に保管されているケースが大半なものの、税理士が保有している場合も考えられます。書類が見当たらない場合は早急に税理士に連絡し、返却を依頼しましょう。新しい税理士が決まっている場合は、随時必要な書類を確認しながら回収するとスムーズです。
4-4.新しい顧問税理士と契約する
現在の顧問税理士との契約が終わる前に次の顧問税理士を決め、スムーズに業務を開始できるようにしましょう。顧問税理士のいない期間があると不都合が生じる恐れがあるため、早めの手配が大切です。
引き継ぎ時、税理士同士のやり取りは一般的に行われません。依頼者自身が「総勘定元帳」や「申告書」等の必要書類を新しい税理士に提供するのが普通です。e-TaxやeLTAXを利用している場合は、利用者識別番号やIDも新税理士に知らせ、設定を変更する必要があります。
税務署への変更届出は不要ですが、新しい顧問税理士との契約内容やサービス範囲は入念に確認しましょう。
5.顧問税理士の変更をスムーズに進めるポイント
起こり得るトラブルのリスクを最小限に抑えるためにも、顧問税理士の変更は慎重に進めなければなりません。手続きをスムーズに進めるには、いくつかの注意点があります。
ここでは、顧問税理士の変更をスムーズに行うポイントを3つ紹介します。
5-1.計画的に進める
手順自体は難しくないものの、顧問税理士の変更は気軽に行うものではありません。変更を考えた際には、現在の税理士との契約内容や会社のビジョン、決算スケジュールを踏まえ、しっかりとした計画を立てることが重要です。
税理士を変更する際には、少なくとも以下の点は決めておきましょう。
- 新旧顧問税理士切り替えの期日
- 新しい税理士への希望
- 新しい税理士で重視すべき部分
- 新しい税理士との打ち合わせの期日
- 新しい税理士と契約を交わす期日
- 現税理士に切り替えの意向を伝えるタイミング
- 各種書類回収の期限
計画的にアプローチすることで、変更過程でのトラブルや不測の事態を未然に防ぐことができます。変更の決断は慎重に、そして計画的に進めるよう心がけましょう。
5-2.書類は確実に回収する
税理士側に管理されている書類には、会社の機密情報が含まれています。書類を回収できなければ情報漏えいのリスクが高まるだけでなく、次の税理士が現状を把握するのが難しくなり、税務調査の際にも困難が生じかねません。したがって、税理士を変更する際には確実に書類を回収することが大切です。契約解除の申し出と同時に書類の返却日を伝え、少なくとも3期分は返してもらいましょう。
書類の回収が難航する場合、税理士が所属している税理士会への相談が有効です。多くの税理士会には、所属する税理士に関する相談窓口が設けられているため、活用しましょう。
5-3.契約終了日を明確に決める
顧問税理士との契約終了日が明確でないと、税理士のいない空白期間を作ってしまったり、必要以上に契約期間が被ってしまったりします。税理士が不在の期間が存在すると、会社の運営に大きなデメリットが生じかねません。
例えば税務調査が入る際、顧問税理士のサポートなしで対応する必要が生じると、事業に集中できなくなる恐れがあります。また、税務上の疑問や問題が生じたとき、解決のためのサポートを受けられません。
このようなリスクを避けるため、税理士の交代を行う際は、旧顧問税理士の契約終了日と新顧問税理士の契約開始日を明確にすることが重要です。契約日の認識違いや空白期間の発生を防ぎ、スムーズな引き継ぎを行いましょう。
6.新しい顧問税理士の選び方
顧問税理士を変更する際、もっとも大切なのは次の税理士が自社に合った相手であるか否かです。税理士費用はある程度事前に把握できても、相性を事前に完全に把握するのは難しい場合があります。しかし、事前に税理士の選択基準を明確にしておけば、最適な税理士探しを円滑に進められるでしょう。
ここでは、よい顧問税理士の特徴を解説します。
6-1.考え方が合う人を選ぶ
税理士選びは、単なるビジネスパートナー選び以上に重要性の高い問題です。税理士と経営者は専門知識を共有するだけでなく、長期にわたる信頼関係の形成が求められます。そのため、もっとも重視すべきは互いの考え方が合致するか否かという「相性」です。相性のよさを感じる税理士との関係は、スムーズなコミュニケーションを可能にし、経営上の課題や悩みを共有しやすくします。
相性を確かめるためには、メールや電話だけでなく、直接会って話すことが大切です。初対面で話しやすさを感じる税理士は聞き手としてのスキルが高く、こちらの考え方を理解してくれやすいと言えるでしょう。経営者として、税理士との関係を長く続けたいと思うなら、人間性や価値観の重視は欠かせません。
6-2.専門性が高い人を選ぶ
業界によっては、特有の慣行や法規制などが存在します。税理士が自社の業界の知識を持っていないと、効果的なアドバイスが難しい場合があるため、事前に税理士の担当経験や業界に対する理解の確認が重要です。業界に精通した税理士であれば、具体的な節税対策や的確な提案が期待できるでしょう。
近年は、「飲食業専門税理士」や「クリニック専門税理士」など、業種や業務に特化した税理士も増えています。また、事業を海外に展開する際は国際税務に詳しい税理士、資金繰りや経営の悩みを持つ場合は、法人の顧問経験が豊富な税理士などがおすすめです。
専門的なアドバイスを受けることで、事業の成長や安定化につながります。経営者のニーズや経営課題に応じて、専門分野が異なる複数の税理士と連携するのも効果的です。
6-3.対応の早さで選ぶ
税理士を選ぶ際、対応の早さは重要なポイントです。返答が遅れることで経営判断に支障が出るケースもあり、特に税務署からの税務調査通知時に連絡が取れないのは問題です。
事前に税理士のレスポンスの早さを確認する方法として、電話やメールでの問い合わせの返答速度のチェックが効果的です。基本的に電話であれば当日中、メールの場合は翌日中に折り返されれば、ある程度安心と言えます。
ただし、決算月に当たる2月~3月は決算や確定申告の繁忙期となるため、どこの税理士事務所でも返答が遅れがちです。それでも、遅れる旨の事前連絡があるか否かで、その税理士の対応力を見極められるでしょう。
6-4.リスクを提示してくれるかで選ぶ
リスクを的確に指摘してくれる税理士を選ぶと、より適切な経営決断が可能です。新しい事業や既存事業の拡大は売上増加の鍵となるものの、リスクも伴います。税理士は、事業を進める際の財務的リスクを明確に指摘し、資金調達のタイミングや経営改善計画などを提案できます。税金を考慮した資金繰りの計画も、税理士ならではのサポート項目です。
また、顧問税理士は経営を後押しするだけでなく、必要に応じて進めるべきでないと提言も行わなければなりません。最終的な経営判断は経営者が行うものですが、事前に把握できるリスクについて税理士からアドバイスがあれば、万が一に備えながら事業を進められます。
まとめ
相性が合わない、顧問料が高すぎるなどの理由で、顧問税理士の変更を検討するケースは珍しくありません。契約時に契約解除の流れが決められている場合もあるため、契約内容を確認した上で契約解除の手続きを進めましょう。また、契約解除の際は税理士が保有している可能性のある書類をきちんと回収することも大切です。
ただし、決算月の3か月前から法人税申告書を提出するまでの間は、顧問税理士の変更には向かない時期です。現在の税理士のほうが1年間の会社の動きを把握しており、決算手続きもスムーズに進むことが多いため、変更の時期はよく見極めるようにしましょう。
監修者情報
税理士法人スマッシュ経営
杉田 透(すぎた とおる)
資格:税理士
経歴
- 1959年
- 愛知県豊田市生まれ
- 1980年
- 名古屋国税局採用
- 2010年
- 法人税担当統括官
- 2020年
- 名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 知立本社入社
所属税理士となる