税務情報
2023.01.17
賃上げ促進税制について詳しく解説!令和4年度税制改正による変更点も
賃上げ促進税制とは、従業員の給与引き上げを行った中小企業を支援するための制度です。令和4年度の税制改正によって、2022年4月1日から施行された制度であり、それまでは「所得拡大促進税制」という名称で進められていました。
税制改正によって変更されたのは、名称だけではありません。制度概要に大きな変更点はないものの、経営力向上要件が廃止され適用対象企業が増加しました。
当記事では、賃上げ促進税制の概要から所得拡大促進税制との違い、さらに賃上げ促進税制の新たな適用要件、賃上げ促進税制のメリットまで徹底解説します。賃上げ促進税制について詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
<関連トピックス>
「2022年の税制改正大綱を解説!法人税・個人所得課税の改正点も」
1.賃上げ促進税制とは?
賃上げ促進税制とは、従業員の給与等を前年度より増加させた中小企業者等を対象に、給与増加額の一部を法人税額から税額控除を行えるようにする制度です。個人事業主の場合は、所得税額から税額控除ができます。
なお、賃上げ促進税制は「賃上げ税制」と略称されることもありますが、正式名称は賃上げ促進税制です。
1-1.所得拡大促進税制との違い
賃上げ促進税制は、令和4年度税制改正によって2022年4月1日から施行された制度です。しかし、新たに創設された制度ではなく、それまでは賃上げ促進税制と同様の制度が「所得拡大促進税制」という名称で進められていました。
賃上げ促進税制と所得拡大促進税制は、いずれも「従業員の給与を前年度より増加させた中小企業者等を対象に、給与等支払額の増加額の一部を法人税から税額控除する制度」であることに変わりはありません。しかし、適用期間と税金控除の対象要件が異なることを覚えておきましょう。
1-2.賃上げ促進税制の節税効果は高い
所得拡大促進税制から賃上げ促進税制への最も大きな改正ポイントは、「税額控除率のアップ」です。
所得拡大促進税制では中小企業等の税額控除率が最大25%でしたが、賃上げ促進税制では最大40%となり、税額控除率が高まりました。
なお、所得拡大促進税制は中小企業者等向けの制度であることから、大企業の場合は中小企業・大企業いずれも対象となる「人材確保等促進税制」を活用することが一般的でした。人材確保等促進税制における大企業の税額控除率は最大20%でしたが、賃上げ促進税制では税額控除率も最大30%となり、中小企業と同様にアップしています。
所得拡大促進税制 | |
---|---|
通常要件 | 雇用者全体の給与支給額が前年度より1.5%以上増額で15%の税額控除 |
上乗せ要件 |
下記の要件を満たせば+10%の税額控除
|
最大税額控除率 | 25%(控除限度額 法人税(所得税)額の20%) |
賃上げ促進税制 | |
---|---|
通常要件 | 雇用者全体の給与支給額が前年度より1.5%以上増額で15%の税額控除 |
上乗せ要件 |
|
適用時期 (適用事業年度) |
40%(控除限度額 法人税(所得税)額の20%) |
上乗せ措置においては、要件緩和が行われていることも1つのポイントです。所得拡大促進税制では2つの要件を満たさなければ10%の税額控除が受けられませんでしたが、賃上げ促進税制では2つの要件それぞれで個別に税額控除率が加算されるようになりました。
これらのことから、賃上げ促進税制は所得拡大促進税制よりも節税効果の高い制度と言えるでしょう。要件を満たしているのであれば、活用することがおすすめです。
2.賃上げ促進税制の適用要件
賃上げ促進税制では、中小企業・大企業とでそれぞれ個別に適用要件が定められています。中小企業・大企業それぞれの適用要件は、下記の通りです。
中小企業 | |
---|---|
通常要件 | 雇用者全体の給与支給額が前年度より1.5%以上増額で15%の税額控除 |
上乗せ要件 |
|
大企業 | |
---|---|
通常要件 | 継続雇用者の給与支給額が前年度より3%以上増額で15%の税額控除 |
上乗せ要件 |
|
大企業においては、給与総額の根拠が「継続雇用者」となっている点に留意しておきましょう。
また、賃上げ促進税制においては、「中小企業・大企業」や「給与等」に関して定義付けされています。自社が要件を満たしているかどうかを確認するためにも、賃上げ促進税制の対象について把握しておきましょう。
2-1.中小企業と大企業それぞれに該当する要件
賃上げ促進税制における中小企業・大企業は、それぞれ下記のように定義付けられています。
中小企業 |
---|
|
出典:中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」
なお、前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人(「適用除外事業者」)は、上記の項目を満たしていても賃上げ促進税制の対象外となり、適用されません。
加えて、同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人・2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受けている法人も、賃上げ促進税制の適用対象外となることに注意してください。
大企業 |
---|
|
出典:経済産業省「大企業向け「賃上げ促進税制」御利用ガイドブック」
なお、資本金が10億円、かつ従業員数が1,000名以上の大企業が賃上げ促進税制の基本要件を満たすためには、上記に挙げた要件に加えて「マルチステークホルダー方針の公表」も行わなければなりません。対象会社は、要件に適した給与引き上げの実施に加えて、下請事業者を含むすべての取引先との適切な関係構築などの方針・事項を自社ホームページに公表し、経済産業大臣へ届け出る必要があります。
このように、中小企業向け賃上げ促進税制と大企業向け賃上げ促進税制とでは該当要件が異なること・各企業規模で対象外となるケースがあることをしっかりと覚えておきましょう。
2-2.「給与等」の内容について
賃上げ促進税制は、雇用する労働者の給与等を前年度より増加させた中小企業者等を対象に、給与増加額の一部を法人税から税額控除を行える制度と説明しました。ここで言う「給与等」とは、社員に支払うお金のうち下記のようなお金を指します。
- (1)給料・賃金・俸給・歳費および賞与
- (2)(1)の性質を有する給与
(2)は、いわゆる「給与所得とみなされる給与」のことで、役員報酬や残業手当、住宅手当といった各種手当も原則として賃上げ促進税制における給与となります。所得税法上非課税とされる通勤手当については、原則的には本制度における「給与等」に含まれますが、賃金台帳に記載された支給額のみを対象として計算するなど、合理的な方法で継続的に雇用者の支給額の計算を計算することもみとめられます。
賃上げ促進税制において給与としてみなされないものには、退職金などが挙げられます。退職金はそもそも所得税法においても給与所得とみなされないため、分かりやすいでしょう。
2-3.事前の認定や届け出の必要性
賃上げ促進税制を活用するにあたり、事前の認定や届け出の必要は特にありません。しかし、賃上げ促進税制の適用を受けるためには、法人税または所得税の申告時、確定申告書にて「税額控除の対象となる金額を記載した書類」や、「金額の計算に関する明細書」などを添付する必要がある点に注意が必要です。
また、上乗せ要件の1つである「教育訓練費の増加」による税額控除措置を受けるためには、教育訓練の実施時期や実施内容・期間・受講者など必要な情報が記載された書類を作成したうえ、適切に保管しておかなければなりません。
3.賃上げ促進税制のメリット
賃上げ促進税制を活用することの最大のメリットは、納税負担を減らしながら優秀な人材の確保・維持につながるという点です。しかし、企業側のメリットはこれだけではないうえ、社員側にもメリットがあることも覚えておきましょう。
最後に、賃上げ促進税制によるメリットを、社員側・企業側に分けて説明します。
3-1.社員の給料が上がる
賃上げ促進税制の適用対象企業で働く社員の最も大きなメリットが、給料や賞与の増加が期待できるという点です。
毎月得られる給料をモチベーションに、日々仕事に励む方は非常に多いでしょう。給料が上がればその分モチベーションアップにもつながり、より多くの成果を上げられるようになります。会社への満足度も高まり、さらなる働きがいを見出せるでしょう。
3-2.賃上げによる負担を軽減できる
賃上げ促進税制による企業側のメリットは、賃上げによる負担を軽減できるという点です。
一般的に、従業員全体の賃上げは経済的な負担が大きく、ハードルの高いものとなるでしょう。しかし、賃上げ促進税制を活用すれば雇用者給与を上げても一定額の税額控除を受けられるため、経済的負担は軽減されます。給与等の増加割合によって最大40%税額控除を受けられることを考えると、賃上げによる支出増加分の税負担は、税額控除で補えると言えるでしょう。
教育訓練費を増加させるために社員研修や勉強会などを実施した場合は従業員の大幅なスキルアップも期待できるため、長期的な視点で見るとプラスになることも考えられます。
このように、賃上げ促進税制はさまざまなメリット・期待できる効果があります。企業を着実に成長させるためにも、活用を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
賃上げ促進税制は、従業員の給与等を前年度より増加させた中小企業者等を対象に、給与増加額の一部を法人税から税額控除を行える制度です。令和4年度税制改正によって2022年4月1日から施行された制度であり、それまでは「所得拡大促進税制」という名称でした。
新たな賃上げ促進税制で大きく変わったポイントが、適用要件と税額控除率です。要件が緩和されただけでなく、最大税額控除率も上がり、旧制度である所得拡大促進税制よりもさらに節税効果の高い制度となりました。
賃上げ促進税制の適用を受けるために、事前の申請は特に必要ありません。しかし、確定申告の際には明細書などの必要書類を添付しなければならないことも覚えておきましょう。
監修者情報
税理士法人スマッシュ経営
杉田 透(すぎた とおる)
資格:税理士
経歴
- 1959年
- 愛知県豊田市生まれ
- 1980年
- 名古屋国税局採用
- 2010年
- 法人税担当統括官
- 2020年
- 名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 知立本社入社
所属税理士となる