経営情報 / 税務情報
2022.12.28
特別償却について分かりやすく解説|税額控除との違いも
「特別償却」という制度の名前は知っているものの、具体的な仕組みや適用条件が分からない方も多いでしょう。特別償却は設備投資による負担を当面の間軽減できる制度で、なるべく所得を減らしたい場合に適しています。
当記事では、特別償却や減価償却の基礎知識や、税額控除との違いを詳しく解説します。特別償却のことを深く知りたい方はもちろん、特別償却と税額控除のどちらを選んだらよいか分からない経営者の方もぜひご覧ください。
目次
1.特別償却とは?
中小企業投資促進税制における特別償却とは、事業用資産の取得直後から減価償却費とは別に経費を計上できる税制優遇措置です。
中小企業などにとって設備投資による負担は大きいものの、特別償却を活用することで当面の税負担を軽減できます。資産購入のために銀行などから融資を受けた場合は、資産購入年度の課税対象所得を減らし、節税した分のお金を返済に充てることが可能です。また、資産購入年度の課税対象所得が特別償却費を下回った場合は、控除しきれなかった額を最大1年間繰り越せます。
出典:国税庁「タックスアンサー(よくある税の質問)No.5433 中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」
1-1.そもそも減価償却って?
減価償却とは、事業用資産の購入費用を複数年にわたって経費計上することです。建物や機械などの資産を購入する際は長期間の使用を前提としますが、時間が経つにつれて資産の価値は下がります。そこで、資産の耐用年数期間中にわたって、資産の取得費を一定割合で按分し経費として計上します。
例えば耐用年数6年の機械を300万円で購入した場合、初年度から5年目までにかかる減価償却費は毎年50万円です。法定耐用年数終了後も資産があることを示すため、6年目の減価償却費を5年目までの減価償却費より1円少なくして余った1円を帳簿に残します。この計算方法は定額法と呼ばれるシンプルなものです。
1-2.特別償却では何ができる?
特別償却の適用が認められる主な事業者は、青色申告法人である次の法人です。
- 資本金や出資金が1億円以下、かつ大企業の子会社ではない中小企業
- 常時使用する従業員の数が1,000人以下、かつ資本金や出資金を有しない中小企業
- 常時使用する従業員の数が1,000人以下の個人事業主
- 農業協同組合など
- 2021年4月1日以降に取得した資産について適用を受けたい商店街振興組合
ただし、映画業を除く娯楽業や性風俗関連特殊営業などに該当する事業者は対象外となります。また、特別償却の適用対象は新品かつ次の条件のいずれかに該当する事業用減価償却資産です。
- 1台あたりの取得価額が160万円以上の機械及び装置
- 測定工具及び検査工具(1台あたりの取得価額が120万円以上、または合計取得価額が120万円以上かつ1台あたりの取得価額が30万円を超える)
- 一定のソフトウェア(1の取得価額が70万円以上、または合計取得価額が70万円以上)
- 道路運送車両法で定められている普通自動車(貨物運送用、かつ車両総重量3.5t以上)
- 内航海運業に用いる船舶
特別償却限度額は資産の取得価額の30%、耐用年数6年の機械を300万円で購入して特別償却を適用した場合、初年度は特別償却費90万円に減価償却費50万円を加えた140万円を経費として計上できます。残りの160万円は、翌年度以降に通常の減価償却費として計上します。
出典:国税庁「タックスアンサー(よくある税の質問)No.5433 中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」
2.税額控除とは?
中小企業投資促進税制における税額控除とは、事業用資産を取得した際に法人税や所得税から一定額を控除できる制度を指します。税額控除の適用対象となる事業者は、資本金が3,000万円以下の法人または個人事業主などです。また、適用対象資産は基本的に特別償却と同じです。
税額控除額は、資産の取得価額の7%となります。たとえばある企業が300万円の機械を購入して税額控除を適用した場合、納付すべき法人税などからの控除額は最大21万円です。控除上限額は納税額の20%ですが、控除しきれなかった場合は超過分を1年間繰り越せます。
出典:国税庁「タックスアンサー(よくある税の質問)No.5433 中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」
また、次の条件を満たした状態で減価償却資産をリースした場合はリース費用総額×60%×7%を控除できます。
【税額控除が可能なリース契約の条件】
- リース契約期間が5年以上、かつ法定耐用年数以下
- 対象設備1台ごとにリース費用総額が定められている
- リース料の支払いが均等額であり、かつ定期的に支払われる
出典:中小企業庁「『上手に使おう!中小企業税制』44問44答|Q17.リースの場合でも、この税制が使えますか?」
資産を取得する場合と異なり、資産をリースする場合は資本金が3,000万円を超える法人も税額控除を利用できます。ただしどのようなケースでも税額控除と特別償却の重複適用はできず、状況に合わせていずれかを選ぶ必要があります。
2-1.特別償却との違い
特別償却と税額控除との違いとして特に重要なポイントは、「永久的な節税かどうか」です。特別償却は損金計上の前倒しであり、特別償却を使用してもしなくても最終的に計上できる経費の総額は変わりません。しかし特別償却の限度額は資産取得価格の30%であり、重い負担を被りやすい中小企業や個人事業主にとって、特別償却による税負担軽減は大きなメリットとなります。
一方で、税額控除は法人税などから直接控除されるため、ダイレクトな節税が可能です。また、税額控除は資産を購入した場合だけでなく、一定条件下でリースした場合も利用できます。ただし購入年度が赤字で法人税などが発生しない場合は税額控除を利用できません。さらに、損金計上により赤字となった所得を繰越欠損金として最大10年間繰り越せる特別償却に対して、税額控除は翌年度までしか繰り越せないため注意が必要です。
3.特別償却か税額控除かどちらを選べばいい?
特別償却と税額控除は目的や性質が異なるため、一概にどちらが良いか悪いかを比較することはできません。どちらを選ぶかは、特別償却と税額控除それぞれの概要及び注意点を理解することが大切です。特別償却か税額控除かを選ぶ際に着目したい判断基準は、以下の通りです。
3-1.資金繰りが苦しい場合は特別償却
資産の取得によって資金繰りが苦しくなりそうな場合や当面の節税をしたい場合は、特別償却がおすすめです。
たとえば、当期も翌期も赤字決算が続くと予想されるタイミングで税額控除を申請すると、当期の適用はもちろん、繰り越しもできなくなるリスクが高まります。一方で、特別償却を適用して繰越欠損金を作っておくと将来の黒字決算に備えやすくなります。
また、翌期以降の業績悪化が懸念される場合や、当期の納税負担を抑えたい場合も特別償却を選ぶと安心です。減価償却を前倒しして納税額を抑えることで手元資金に余裕が生まれ、経営改善や経営方針転換などを図りやすくなります。この方法は、固定資産が多く通常の減価償却の負担が大きい場合にも有効です。
3-2.節税したい場合は税額控除
資産を取得しても資金繰りがさほど苦しくなく、中長期的な視点から永久的な節税効果を期待する場合は、税額控除がおすすめです。
たとえば、当期は赤字でも翌期以降が黒字となる見込みの場合、当期の税額控除を繰り越しておき、翌期以降の納税額を減額することで節税効果が高まります。また、減価償却費ではなく法人税などから直接控除すれば経費を増やす必要がなくなり、決算書上の利益を保ったまま節税ができます。
特別償却と税額控除の選択基準についてはさまざまな考え方がありますが、特別償却を選ぶ必要に迫られていない場合は税額控除を選ぶとよいでしょう。
まとめ
特別償却は、設備投資をした初年度の償却額を多めに計上できる制度です。資産を取得することで資金繰りが苦しくなる場合は、早めに資金確保ができる特別償却がおすすめです。ただし、特別償却はあくまで初年度の償却額を増やせる制度であり、必ずしも節税につながるものではないことを理解しておきましょう。
特別償却と税額控除のどちらを選択するかは、企業の状況によって異なります。それぞれの特徴を照らし合わせた上で、特別償却または税額控除の利用を検討してください。
監修者情報
税理士法人スマッシュ経営
鈴村 明一(すずむら あきかず)
資格:税理士
経歴
- 1945年
- 愛知県豊田市生まれ
- 1964年
- 名古屋国税局採用
- 1988年
- 法人税担当統括官
- 1995年
- 法人税担当特別調査官
- 2005年
- 名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 知立本社入社
社員税理士となる - 2009年
- 税理士法人スマッシュ経営
代表税理士就任
政治資金監査人登録