税務情報
2022.12.07
確定申告書への印鑑押印が不要に!制度の変更点と理由を解説
確定申告で提出する書類、確定申告書などの税務関係書類にはこれまで押印が必要でしたが、2021年の税制改正により押印は不要になっています。しかし、まだ税制改正について把握できていないという方もいるでしょう。
当記事では、税制改正によって変わった確定申告書への印鑑押印について、詳しく解説します。国税庁がデジタル化を進めている影響で、他にもさまざまな制度変更があるため、こまめに知識をアップデートしていくことが大切です。
1.確定申告書に印鑑は不要!
2021年に行われた税制改正により、税務署長等に提出する税務関係書類への押印は廃止となりました。税制改正前は、法令に基づいて税務署に提出される税務関係書類には提出者の押印が必要でしたが、現在は不要となっています。
税務関係書類とは、国税・地方税を申告する書類を意味します。個人の所得税や消費税の申告時に提出する確定申告書も、税務関係書類の1つです。税制改正後は、確定申告書への印鑑押印も不要となっています。
中には、印鑑押印が不要になったことを知らずに、以前と同様に押印する人も少なくありません。押印が不要な税務関係書類に押印したとしても、問題なく処理されます。
1-1.確定申告に必要なその他の書類への押印は?
確定申告には、さまざまな書類の添付が求められます。青色申告・白色申告を問わず、確定申告に必要なその他の書類にも押印は不要です。
税制改正前の確定申告で押印が求められていた主な書類は、下記の通りです。
確定申告の種類 | 押印が求められていた主な書類 |
---|---|
青色申告 |
|
白色申告 |
|
税制改正後は、それぞれの申告書用紙や書類に存在していた押印欄が削除されています。e-Taxによる提出時だけでなく、税務署へ直接提出する場合や郵送で提出する場合も、押印する必要はありません。
また、確定申告に関連する手続きに必要な提出書類も押印不要となりました。そのため、青色申告に必要な「開業届」「青色申告承認申請書」、会社員の年末調整に必要な「給与所得者の扶養控除等申告書」への押印も不要です。
確定申告に必要な書類への押印は不要となりましたが、他の手続き自体に変更はありません。
1-2.例外的に押印が必要な書類
税務関連書類への押印は不要ですが、一部例外的に押印が必要な書類もあります。厳格な本人確認が求められる手続きに関する書類は、税制改正前と同様に押印が求められます。
例外的に押印が必要な書類には、主に下記があります。
- 納税保証書
- 抵当権設定登記承諾書
- 所有権移転登記承諾書
- 遺産分割協議書 など
また、実印の押印及び印鑑登録証明書等の添付が必要な特定個人情報の開示請求や閲覧申請手続きなどにも、委任状への押印が必要となります。
「納税保証書」「抵当権設定登記承諾書」「所有権移転登記承諾書」は、担保提供者や保証人等の意思を確認するための書類です。担保提供または相続税の物納に関する手続きで提出します。
「遺産分割協議書」は、財産の取得状況を証明する書類です。相続税または贈与税の特例の適用を受ける手続きで提出します。
それぞれの手続きを行うには、必要書類と併せて印鑑証明書の提出が必須です。書類に実印による押印がない場合や印鑑証明書が添付されていない場合は、手続きを行うことができません。また、認印やシャチハタは使用不可です。
手続きをスムーズに進めるためにも、必要書類の押印の有無を確認しておきましょう。
2.確定申告書への押印が不要になるのはいつから?
確定申告書や確定申告に必要なその他の書類への押印は、2021年4月1日から不要となっています。すでに制度は開始されているため、国税庁ホームページの掲載様式は、順次押印欄がないものへと変更されています。
税制改正後の確定申告時の留意点は、下記の通りです。
・押印欄が残っている刷成済み様式も存在している
税務署で配布している書類には、押印欄が残っている場合があります。配布された書類に押印欄がある場合でも、押印は不要です。過去に入手した押印欄がある税務関係書類も、問題なく使用できます。
・押印の有無によって効力に影響することはない
確定申告では、押印がないからといって不利になったり手続きができなかったりすることはありません。
・金融機関へ提出する書類には押印が必要となる
振替依頼書・ダイレクト納付利用届出書など、金融機関へ提出が必要な書類は、引き続き銀行印の押印が必要です。ただし、e-Taxを利用して手続きを行う場合は、書類への押印は必要ありません。
確定申告に関する書類でも、提出先が税務署ではない場合は必要に応じて押印が求められます。確定申告での不備やトラブルを防ぐためにも、注意点を踏まえた上で手続きを行いましょう。
3.確定申告書が押印不要になった理由は?
確定申告書や確定申告に必要なその他の書類への押印が不要となった理由は、国税庁がデジタル化に取り組んでいるためです。
国税庁では、国民や事業者の利便性向上と効率化を目的として、デジタル化を推進しています。さまざまな書類への押印が廃止されているのも、デジタル化の取り組みによる影響です。
国税庁が行う主なデジタル化の取り組みは、「e-Taxの推進」「帳簿のペーパーレス化」「納税のオンライン決済」の3つです。ここからは、それぞれのデジタル化の特徴について詳しく解説します。
3-1.e-Taxの推進
国税庁では、デジタル化に向けてe-Taxと呼ばれる電子手続きシステムを導入しています。電子データで申告書や必要書類を提出することで、行政手続きにかかるコストを削減できます。
e-Taxの対象となる主な手続きは、下記の通りです。
- 所得税や消費税など税に関する申告
- 全税目の納税
- 開業届や青色申告承認申請書の提出
- 納税証明書の交付請求
マイナンバーカード・利用者識別番号・電子証明書を取得することで、e-Taxによる確定申告ができるようになります。
3-2.帳簿のペーパーレス化
帳簿のペーパーレス化は、納税環境を整備する目的で行われています。従来は帳簿や書類を紙で保存するよう義務づけられていました。しかし、2022年1月からは紙での保存に限らずスキャンによるデータでの帳簿保存も可能となっています。なお、2024年1月からは電子帳簿保存が義務化となるため、導入に向けての対応や準備が必要です。
出典:経済産業省 中小企業向け補助金・総合支援サイト「どうすればいいの?「電子帳簿保存法」」
帳簿のペーパーレス化による主なメリットは、下記の通りです。
- 紙資源の消費削減によるコストカット
- 従業員の負担軽減
- 業務効率化による生産性の維持
青色申告の場合は、電子帳簿保存またはe-Taxで確定申告書を提出することにより、65万円の青色申告特別控除を受けられます。
3-3.納税のオンライン決済
納税のオンライン決済は、インターネット経由で納税するシステムです。国税庁では、確定申告から納税までのオンライン化を目指しています。オンライン決済を利用すると、税務署や金融機関などへ足を運ぶことなく納税が可能です。
オンライン決済で納税する方法は、下記の通りです。
- e-Taxを利用して預貯金口座から振替納税する
- インターネットバンキングから納税する
オンライン決済による納税は、納税者の利便性の向上と納税事務の効率化が期待できます。納税証明書は、PDFファイル形式の電子納税証明書を各自で印刷して使用します。
まとめ
確定申告書への押印は、2021年に行われた法改正により不要となりました。確定申告書以外にも、青色申告決算書や収支内訳書など、確定申告に使われる書類は押印不要です。
国税庁はデジタル化を推進しており、e-Taxや納税のオンライン決済などが進められています。2022年には電子帳簿保存法が改正され、2024年以降は電子帳簿の保存が求められるため、企業や個人は事前の対応が必要です。確定申告が押印不要になったのもデジタル化の影響であり、今後も手続きの変化には注目しておく必要があるでしょう。
監修者情報
税理士法人スマッシュ経営
中垣 泉(なかがき いずみ)
資格:税理士
経歴
- 1951年
- 愛知県豊田市生まれ
- 1974年
- 名古屋国税局採用
- 1992年
- 法人税担当統括官
- 2012年
- 名古屋国税局退職
税理士登録
税理士法人スマッシュ経営 岡崎オフィス入社
社員税理士となる - 2019年
- 税理士法人スマッシュ経営
岡崎オフィス所長就任 - 2021年
- 岡崎オフィス所長兼代表社員へ就任